お前が水着になるんだよ!

 ぺたんと女の子座りするローレ。


 ふふ。お前が水着になるんだよ! って奴です。

水着仲間増えた。嬉しい!


 フリルビキニにショートパンツ。色は緑系ですね。うん、可愛い。これはいける。浜辺につれて行きたい女の子間違いなしです。 

 私より布面積が多い。とくにボトム。いいなぅ。


「こ、これは?」

「それが夏イベ限定の水着。あなたの魔力とスタイルを強化する水着ですよ。これはURの水着『妖精女王の水着』ですね!」


 アルティメットレアを引くとはさすがローレ。強運です。


「……スク水じゃなくて良かった…… 本当に良かった……」


 うつろな顔で呟いている。そんなにスク水が嫌だったのでしょうか。ええ、確かに私も嫌ですけど。


「あ、そこらへんに転がってる水着は拾っておいてください。コモンかアンコモンなので必要ありません」


 レア度は性能に直結しているのです。

 使える低レアなど幻想にすぎません、といいたいですがたまに存在するのも事実。そういうのは人気ですぐに広まります。


「なんで水着になっていたか聞きたかったのですが、先に聞いておくべきでした。知っていたなら逃げたのに……」


 もう手遅れですね!

 恨み節で睨んでくるローレ。

 いそいそと転がっている水着を拾います。売ればお金になりますよ。まがりなりにも魔法の品です。


「でもあなたの戦闘力は跳ね上がりましたよ。力には代償がつきものなのです。教えたでしょう?」

「この代償は全力で回避したかったです」

「慣れますから。ほら、いきますよ」

「何か…… 何か羽織らせてください。お願いします」

「だめ」


 羽織ると能力が下がります。


「鬼ですか! 悪魔ですよね? もう優しかった師匠はいないんだ……」

「あなたの師匠は数百年前にもう……」


 しくしく泣き出した。

 あなたの師匠数百年前に亡くなりましたからね。私はあくまで、賢者シアンです。


「仕方ありません。これを」

「ありがとうございます!」


 私はガウンを手渡し、ローレはいそいそと着る。


 シースルー系ガウン着たエルフは……そのなんというか…… 


 エロ! これかなりエロ! 全裸よりエロいわ。これ。


 超すけすけなんですよ。薄い模様はモザイクにみえます。

 すごく、可愛いというか卑わ……女性から見てもあやうい魅力がでてしまってます。体のライン綺麗です。


 そしてローレは無言で私の頭にげんこつを落としてきました。


「痛っ! なんで!」


 瞳孔が開ききった、うつろな瞳で睨んでくるローレが本当に怖かったので、平謝りしました。


 賢者、ちょっと反省します。



◆ ◆ ◆



「シアン。大変申し訳ありませんでした」


 平謝りしてくるローレ。いいの。ほんの少し調子に乗った私が悪いんだから。

 気にしないで。


「でもこの水着、本当に能力アップしますね。属性に水追加とか」

「ええ。私の水着は無属性ですが衣装変えただけで属性追加されるとか意味不明ですよ。上から何か羽織ると効果無効なので注意してくださいね」

「シアンは、その解明に?」

「いえ。どう露出を少なくするか、変な目で見られないかを追求しつつ、能力が低下しないよう重ね着を追求しています」

「まさに恥辱にまみれた地獄の道行き……」

「そこ。現実を言わない」


 変なナンパ増えるし、襲われそうになるし。宿屋で勇者に押し倒された時は迷わず締め落としました。

 そんな格好しているのが悪いといわれる始末です。


 この姿が一番強いんですから仕方ありません。

 

「変なパッシブスキルも多いですね。パーフェクトスキンガードやUVカットはわかるとして、プリズムエフェクトや夏イベドロップボーナスってなんなんでしょう」

「あなたも水着の超すっごいレアってことですね。でもそこは気にしてはダメ。神々の奥深い思慮に私たち人間の考えが及ぶわけないのです」


 可愛い水着エルフはきっと人気です。

 私だって青髪賢者だし! 可愛い女賢者といえば青髪なのですー。


「そもそも、この夏イベ限定水着通販ボックス魔法、どこで手にいれたんですか?」

 

 私はその質問にそっと目を逸らしました。

 それ聞くの?


「シアン? その仕草、師匠がやらかした時にする仕草そっくりですよ?」

「私も最初は水着ガチャなんて知らなかったんです。も、もらっただけだから……」

「だ・れ・に?」

「……戦女神様に。死んだ時、私どうしても信仰心足りなくて。だから天界を制圧して。信仰するから何かくれ、と」

「脅迫した、と。信仰じゃなくて侵攻ですよね? その時点で神になれましたよね?」

「侵攻とか人聞きの悪いこといわないでくださいね? ちょっと制圧しただけなのです!」

 

 高レベル魔法使いは、神々への位に挑戦することができるのです。戦って結果を出せば神様になれます。

 それが弱くて貧弱な魔法使い、唯一の特権といってもいいぐらい。

 死後、天界に挑戦した私は戦女神に直談判しただけです。神様になりたいわけではなかったんです。


 戦女神とは仲良くなれたし、転生後は彼女を信仰することを約束したのです。

 あと転生特典をちょっとおねだりしたら、このガチャ魔法をくれたのです。


 夏イベ水着とは聞いていませんでしたが!


 今でも耳を澄ませば、戦女神の声が……


『水着気に入ってくれたかな…… クフフ。ねえ? シアン?』


 あれ。何か戦女神が闇墜ちしているような? 

 まさかいきなりひん剥いたこと根にもってますか、彼女? 

 でも装甲系の鎧って破壊するとキャストオフっぽくなりますよね。


 気のせいです。気にしないようにしましょう。私が信仰している女神が闇墜ちするはずがないのです。


 あれ。私の信仰心、よくみると侵攻心になっている? なんでこのパラメータで魔法攻撃力まで上がるんです? 水着のせいで偽装された能力が正しく表記されたということかな…… 

 こっちが正しいの?!


「言い訳すると、この夏イベ限定ガチャボックスは神官時代の最後の試練を終えて使えるようになったのです。どうしても真夏の暑い日に戦力が欲しい時回すように、と言われていました。そして今年の夏、初めて開けたのです。クラーケンと戦うために」

「で、水着だったと」

 

 私、詰問されてる?


「ええ。思わず銛……じゃないついでに当たった水神の槍を使って一撃でクラーケンを倒してしまいましてね。『大物獲ったどー』ネタがやりたかっただけなんですが…… その後勇者たちが水着希望とうるさくて、ずっとこれで定着したのです。その水着が理由で追放されましたが」

「意味がわかりません」

「では道中、火の魔王と勇者の話をしましょう」


 こうして私は水着のパートナーを得ることになったのです。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る