ポニテエルフ娘にはどんな水着がでるかなー。マイクロビキニかな? スク水かなー?

 ロイにもらった外套を着て、私はそそくさと城の外にでました。

 町の混乱に乗じた格好です。今は検問している暇はないでしょう。


 街道を抜け、隣町に向かいます。とくに行く当てはないのですが、火の魔王にもう一度会いにいこうかな、となんとなく思ったりします。

 迷惑かなあ……


 賢者もやめてしまおうかと本気で思ってしまったり。

 転職して錬金術師とか、非戦闘職もいいかもしれません。


 そう思っていると、後ろから声をかけられました。


「あの! 青の賢者シアン様ですよね?」


 聞き覚えがある声です。それは本当に遠い昔――


「はい。シアンです」

 

 後ろを振り返ると、私と同じようにすっぽりとフードを被った女性がいました。


「あの魔法、間違いありません。我が師オリジナルの竜殺し魔法【爆熱鱗粉】。火炎袋を持つ魔物を内部から焼き殺す、必殺の魔法」


 女性はフードを脱いだ。耳が尖っている美少女、エルフ。美しい金髪を後ろで結っている。ポニーテールにしたんですね。似合ってますよ。

 彼女は――かつての私の弟子。


「私です! ローレです! 覚えておられますか?」

「いえ。ごめんなさい」


 私はぺこりと頭を下げて、背を向いて歩き出す。

 前世の師弟関係など、親戚のおじさんの知り合いにも及ばない、遠い縁。

 今の私は彼女に何も伝えてないし、伝える気もないのだから。


 前世の私を最後まで看取ってくれた、最愛の弟子。忘れるわけはないのです。


 今、私水着ですし。この子まで巻き添えにしてしまうのも気が引けます。


「師匠! 何故! 私はずっと探していたのに!」

 

 涙声。その言葉には嘘はないのでしょう。

 迷惑だとは思いません。むしろ嬉しい。


「今の私は、あなたの師匠ではありません。16歳の小娘なのです。魔法の徒よ」


 彼女は今は400歳だろうか。

 エルフで言えば二十歳ぐらいなのだが、エルフの外見は思春期で止まる。15歳ぐらいに見えた。


「今の、って! やっぱり師匠じゃないですか。私が魔法使えるってなんで知っているんですか!」

 

 思わず口走ってしまいました。失敗です。


「前世の記憶はかなり薄いのです。ですが、確かに覚えていますよ。かつての私の最愛の弟子」

「師匠:……!」

「ですが、今生の縁にあなたを巻き込むわけにはいかないのです。私は少しばかり力を持ちすぎました」

「師匠が火の魔王を倒したのですよね?」

「勇者様ですよ」

「嘘です。あんな勇者に倒せるわけがありません。――何故あなたが推しの火の魔王を殺したかはあえて問いません。ですが死亡し、かの国が戦火に見舞われてるとしってもなお、あなたは……」

「どういうことです!」

 

 ローレの言葉を途中で遮り、彼女の肩を掴んでしまう。

 火の魔王が死亡? 何故。あの男は絶対余力を残していた。間違いありません。武器を折っただけ。

 私との戦いのダメージなど、一日あれば回復するはずです。


「火の魔王は死に、火炎の国が混乱している間、侵攻を受けています。獣魔の大軍に」


 この世界には様々な種族がいるが、獣魔は悪魔の末裔ともいわれる恐ろしい種族。

 猫耳、犬耳の獣人族とは違い、頭部そのものが牛や馬、豚。いわゆるミノタウロス、オークはこの獣魔に属します。


「四天王がいるでしょう、あの国は!」

「東方より来た幻魔のヌエに倒されたそうです。四天王最弱と言われた幻術師フラックは一撃で……」

「何してるの、四天王たち!」

 

 最弱はどうでもいい! 残り三人はそもそも何しているのですか。

 幻魔のヌエ。厄介な敵です。かの東方の国ヤシマから渡ってきたとされる獣魔の王。

 確かに魔王ぐらいではないと、渡り合えない可能性が高いと思います。


「火炎の国へ行かないと」

「師匠! 私も連れていってください!」


 そういえばこの子も火炎の国出身でしたね。覚えていますよ。


「ダメですよ。危険です」

「お声をかけたのは、そもそも火炎の国への救援を依頼するためなのです。我が師ではなく、賢者シアンにお願いします」


 ふと考えます。

 賢者シアンとして――ローレの意思が本気なのか。


 巻き添えは不憫と思いましたが、考えを改めましょう。


「私の仲間になると? では師匠アネットの弟子ではなく賢者シアンの仲間としてなら受け入れましょう。それはきっと辛く苦しい日々になるでしょう。恥辱にまみれた日々を送るかもしれません。それでもですか?」

「覚悟しています。我が故郷を助けたい。あなたと一緒に!」


 私は黒い笑みを浮かべた。

 ローレが一歩後ずさるぐらいには――邪悪だったのだろう。


「貴方の覚悟、受け止めましょう。では今から――」

「戦いですか?」

  

 彼女は杖を取り出し、身構える。


「ないない。この魔方陣に手をおいて。魔力を込めて」

「あ、はい」


 私が空中に描いた魔方陣に手を添える。

 魔方陣がくるくる回り出す。


「ガチャは回り出す」


 かかった! 初回無料十連スタートです!


「あのシアン? これは?」

「これは夏イベ限定の水着ボックスガチャ。あなたの水着を決定します」

「は?」

 

 真顔で問いかけ直してきました。

 エルフの女の子がそんな圧な表情しちゃいけませんっ!


「あなたも水着になるんです。スキルもいっぱい! 能力上昇も間違いなし! やったね!」

「いや! 絶対いや!」

「もう遅いのです! あなたも夏イベ仕様の水着になるのですよ」

「シアン?! 私を売りましたか? 巻き添えですか?!」


 誰に売るんですか。誰に。

 巻き添え? それは否定しません。ついてきたいといったのローレだしー?


「初回十連無料ですよ?」

「そういう問題じゃないし?!」

「ガチャが無料なんですよ!」

「そういう誘い文句でガチャにハマってしまうんですよね? ガチャ廃になった美少女エルフ、課金に追われてバブリースライム風呂に沈められるとか瓦版に載っちゃうんですよね?!」


 なんですか。バブリースライム風呂って。毒死しそう。


「私の相方になるというならそれぐらいの覚悟が必要なのですよ。ふふ、ポニテエルフ娘にはどんな水着がでるかなー。マイクロビキニかな? スク水かなー?」


 ローレは可愛いので、とても楽しみです!


「かえるー! スク水いやー! ぜったいやー!」


 エルフ娘の絶叫が轟いています。


 ちょ。私が悪者みたいじゃないですか!


 ローレが、大事な部分が光に隠されながら、美しいエフェクトを描いて水着に変身しようとしていました。

 そう、これは魔法少女の変身パターンなのです!

 

 私は変身の演出が収まるのを息を潜めて見守っていました。

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