勇者は水着賢者をもう一度利用したい(side勇者)
俺は勇者エーキル。
この国の第五王子にして、天に愛された正義の勇者だ。
魔王討伐にいってから、ろくなことがないのだ。
すべてはあの賢者シアン。
そもそもあの女、生意気だ。俺の女にしてやろうと宿屋の部屋で押し倒したら、そのまま関節技で意識を落とされて気が付いたら朝だった。
賢者だろ、お前。モンクかよ。
頸動脈の圧迫は得意です、とか胸を張るなよ。
土下座して謝ったら許してくれた。あれ本当に16歳か。
夏イベの中ボス退治の時、シアンが水着に着替えたら、さらに強くなった。なんでも夏イベ仕様というヤツらしい。
一撃でクラーケンを倒したのだ。
たまたま魔法武器がクリティカルしただけです、と賢者は言い張ったが、それでもクリティカルすれば一撃で中ボスを瞬殺できるのだ。
それ以後、確かに戦闘は楽だった。
もともと実力を隠している節があったが、あの一件以来補助魔法に徹するようになった。あやしい。
シアンはたびたび元のローブに戻りたいと訴えたが、断固拒否した。彼女が水着に変更してから、明らかに戦闘力があがっている。失うわけにはいかなかった。
盗賊のロイが戻してやれよといったが、無視。他のメンバーも俺と同意見だった。そりゃそうだろうな。楽だったし。
水着姿になったシアンの補助魔法も効果は絶大だった。ローブだった時とは比較にならない。
俺が強くなった。そう錯覚するほどに。
だから最強といわれる火の魔王と対戦したいと言った。
我が国も手狭となり、領土を拡張する。古の魔法使いの約定で不可侵条約は存在したが、父がそれを破り侵攻を開始。
返り討ちにあい、逆に領土を狭めている最中だった。
賢者は表情一つ変えず頷いた。てっきり力不足とか、もっと修行しろというのかと思った。もともと、この国に所属して将軍の信認厚い剣士からの紹介だった女性だ。
修行修行うるさかったのだ。俺が弱いみたいじゃねーか。
シアンは恐るべき術を実行した。
いきなり火の魔王の王城、しかも謁見の間に俺たちをテレポートさせたのだ。
火の魔王は俺のほうなど見ていなかった。賢者シアンに――懐かしさを感じる視線を向けていた。肝心のシアンは気付いていないようだったが。
無視され悔しかったが、チャンスだ。
先手必勝とばかり奇襲した。一太刀は入れたと思う。だが、ものの数分で俺たちは全滅した。――賢者シアン以外。
気が付いたら、魔族に王都まで送り返されたよ。俺が魔王倒したことになっているよ。また不可侵条約結ばれてるよ。
全部俺の手柄だよ。
なんでだよ?
再度火の魔王にリベンジにいこうとしたら、賢者と父である王に止められた。もう終わった話らしい。
ふざけるな!
俺は自分の力で手柄を立てるんだ。シアンは引き分けに持ち込んだといったが、それもあやしい。
もういい。あんな奴の手は借りない。
俺はシアンを追放した。ロイまで抜けたのは想定外だったが、次は美少女忍者でも仲間にしようと思う。惜しくはなかった。
その日、王都にエルダードラゴンが襲撃した。
逃げ惑う人々。皆の視線が俺に集まる。
だが、空飛ぶドラゴンに俺には何もできない。
逃げる訳にもいかない。ドラゴンの真下に行き、魔法で牽制をしようと思ったのだ。
そこでまた、あの忌々しい賢者が、なんと空を飛んで現れた。一匹目を一撃で殺し、二匹目を爆死した。
真下にいる俺に気付くこともなく。
確信した。あいつはやっぱり実力を隠していた!
もっと楽にレベリングできたのに! ちきしょう!
ドラゴンに立ち向かおうとした俺に、肉片が降り注ぐ。真下にいたのが最悪の結果を招いたのだ。
周りの目が冷たかった。
俺は一目に触れないよう、王城に入り、血を洗い流しながら屈辱を晴らすことを誓った。
その後、さらに修行をするべく冒険に出た俺たちは気付いた。
シアンの支援魔法がなくなった今、戦闘力がガタオチだったのだ。
シアンを仲間に戻そうと戦士と魔法使いがうるさかった。
早急にシアンに戻ってきてもらう必要は確かにあった。
いっそ次仲間にするときは俺の女にしちまおう。一夜過ごせば、もう逆らうまい。
ダメだった場合は別の賢者を探せば良い。それだけだ。
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