第12話 憑かれてるのはお前だ!
「え、どういうことですか・・・・?」
「だから。ぼくは、飛鷹さんが霊に憑かれてるっていってるんだよ」
うなだれた田辺さんの言葉に、私は呆然と呟いた。
「え、だって・・・待ってください。憑かれてるのは
私じゃなくて友達で・・」
「違うんだ。君に車に乗ってもらったのはお土産を渡すためだけじゃないんだ」
「・・・・」
田辺さんの憔悴したような顔に私は何も言えなくなった。
「君に車に乗ってもらったのは、君に霊が憑いてることを伝えたかったからなんだ。これを相手に聞かれたくなかったから君に車に乗ってもらおうと思ったんだけどね。霊が入らないだろうと思ってたら、ラジオの電波に乗って、相手がこちらにきてしまったんだよ」
「え・・・・・・?」
田辺さんの車からは。
なんのことはない、普通のカーラジオが流れていた。
これが?
電波?
え、何いってんのこの人。
私が霊に憑かれてるだと?
今だからこそ霊の通り道にしてるものが、電波、インターネット、鏡なのは知ってても、そのときは何もかもが寝耳に水だった。
「え、私、憑かれてるんですか?」
「職場の人の当たりがきつくなってきたっていってましたよね?霊が憑くと自然と周りもあなたに冷たくあたってしまうようになるんです」
「それは、そうですけど、でも、それは私が仕事ができないからで・・・」
困惑しながら思い出す職場の状態に、私は最後まで反論することができなかった。
もしそうなら、どんなにいいだろう。
「霊に憑かれると、物事がうまくいかないことが増えたり、何故か周りもその人を攻撃したくなったりするんですよ」
そう。
これも今だからこそわかるが、この時期の私は、まさに憑かれやすい人間絶頂期だった。
ちなみに、憑かれやすいタイプとは、
マイナス思考な人。
頼りたくなるほど人がいい、もしく優しい人。
孤独を抱いている人。
落ち込んでる人。
まだまだあるが、こういう人間は、霊的存在には非常に居心地がよく、憑きたくなるタイプ、もしく頼りたくなるタイプでもある。
社会人になった私は、まさにそのタイプであり、毎時その状態だった。
では、憑かれた場合どうなるか。
より物事は停滞、膠着し、悩みは深くなり、周りの人間の当たりはキツくなっていく。
理屈でなく、これは現実だ。
始まりはそうでなくても、憑かれると、何故かすべて物事が悪い方に悪い方に流れ始める。
これはイコール、憑かれた人間がもっと追い込まれ、死にたくなる状況を霊が助長して作り出しているということでもある。
彼らは自分と似たものを好み、憑いた人間を自分と同じものにするために、どんどん相手を追い詰めていくのだ。
そして私の場合も然り。
毎日のように、嫌味や罵詈雑言を浴びていくことで、私はどんどん仕事も人間関係も、泥沼に追い込まれている状況だった。
霊的な存在にはまさに、鴨ネギな状況でしかなかったというわけだ。
だが、こんな知識ですらその当時の私にはない。
ただただ私は面食らって、困惑の表情しか浮かべられないでいた。
「でも、どうしたら・・・」
そもそも、このときの私は、まだ憑かれてる自覚も、この状況にも頭がついていっていなかった。
そのため、よくわからないまま頭から絞り出した言葉は次のようなものだった。
「その・・・田辺さんにはどうにかできるのですか?」
田辺さんは難しい顔をしたまま、
「やってみます」
と呟いた。
都内にいればきっと宮藤氏がなんとかしてくれたのかもしれない。
だが、今私がすぐに縋れる相手は田辺さんしかいなかった。
彼を信頼はしていたが、未体験のことには誰しも戸惑うものだ。
これから起こることが見えなくて、私はただ不安に怯えていた。
「ごめんなさい。ちょっと横になってもらっていいですか?」
だから、車のシートを倒された時も、ためらう気持ちはあっても逆らうことはできなかった。
「何をするんですか?」
「し、黙っててください」
田辺さんは私の腹部辺りに手をかざしながら目を閉じた。
「・・・・緑色のカーテン・・・のある部屋、に覚えはありますか」
そして、目を閉じたままつぶやくように話しだした。
「緑色の絨毯は、どうですか・・・・・・」
そうして田辺さんの口からこぼれる意味不明な言葉に、私はまた眉をひそめることになる。
「え?わかりません。私の部屋ではないですけど・・・」
「そうですか・・・じゃぁ、これは、この子の記憶なのかな??」
手をかざしたまま田辺さんはつぶやく。
そして、「うん、うん」、と誰かと会話するように、目を閉じたままうなずき始めた。
「・・・・」
私は眉をひそめたままそれを見ていることしかできなかった。
この人は何をしているんだ。
冷静に考えれば考えるほどますます不可解な事態だった。
現に私は、憑かれてると言われても全く痛みを感じていないし何も見えたり聞こえたりしていないのだ。
なのに、目の前でサイコメトリーもいい行動をとられると、この普通でない状況が、かえって茶番にしか思えなかった。
だが、彼の顔は至って真剣だった。
時々眉根を寄せながら、私でない何かと対峙しているその様は、とても冗談としてやってるようなものには見えなかった。
「うん、うん・・・」
何度かまた頷いて間もなく、田辺さんは目を開くと私に話しだした。
「飛鷹さんに憑いている女の子は、歌が好きな女の子だったみたいだね」
「はぁ」
「飛鷹さんと同じで歌が好きだったから君に憑いたみたいだよ」
「そうなんですか?」
「今、離れるように何度も言ってみてるんだけど、なかなかうまくいかなくいんですよ」
田辺さんは困ったようにため息をつくと、また意識を集中するように目を閉じた。が……何度か唸るような声を発して、息を吐いた。
「だめだ。…これは無理やりいくしかないな」
疲れ切ったように目を開いた田辺さんは、私の腹部にかざした手を、片手から両手に変えると、ハンドパワーを注ぐかのごとく、また、私に手のひらをかざし、その手を徐々に上に持ち上げ始めた。
シーラの話をしよう 旋利 @gcrow5
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