第11話 田辺 真

その人と久々に会ったのは、やっぱりコンビニだった。


やっぱり、というのは、この人と初めて会ったのがコンビニだったからだ。


というのも、葬儀屋で働く前、私はコンビニでアルバイトをしていたが、そこで出会ったのが田辺さんだったのだ。


田辺さんは一見すると人の良い紳士に見えた。

久々に会ったときも物腰は穏やかでやっぱり変わらず、落ち込みがちだった私は、図らずとも再会したことをとても喜んだ覚えがある。


そう。

それは葬儀屋の仕事がうまくいかずに悩んでいたときの再会だった。


その頃の私は、家にまっすぐ帰るのが嫌で、よくコンビニに寄っていた。

何を買うという目的がなくても、帰りづらい家の駐車場ではなく、コンビニなどの駐車場で時間を潰すほうが気が楽だったということもある。

悩みがあったりすると、車で泣いたりして、すっきりしたころに車を出て買い物をしたりして時間を潰す方法がその時期の私にはなくてはならないものだった。


そんな時期に。

田辺さんと再会し、話し始めたのをきっかけに、私は

田辺さんと連絡を取り始めた。


そして、二人で話したときに、私は聞いてしまったのだ。


「田辺さんは幽霊を信じますか?」

と。


すると、笑われるかと思っていた質問に彼はあっさり「信じますよ」と答えてくれたのだ。


それから杠のことを相談するのは時間の問題だった。


だが。


このとき……

田辺さんがどんな人物なのか、私はまだよくわかっていなかった。

そしてその時期は、ちょうど宮藤氏と連絡をとりあい始めた時期でもあった。


つまり、不安だった私は、事態を早く解決できるならと闇雲にそれっぽい人に相談していたことになる。


が、このとき一番ネックだったのは、すぐ解決できる人かどうか。


宮藤氏は、都内にいる人で、知識を持っているとは知っていても、それ以上何ができるということまで私はまだ知らなかった。


そして、とりあえず必死だった私は、田辺さんにも杠のことを相談し、流れで、今の自分の状況を話すまでになった。


田辺さんは私の話を笑わなかった。

親身になって聞いてくれた。

その真摯な態度は私の心を解きほぐし、涙させた。

そして、すっかり相手に心を許した頃のことだった。


ある夜、田辺さんからメールを受け取った。


『送信者:田辺 真

本文:渡したいものがあるのでいつものコンビニに来てもらえませんか?』


とのこと。

私は首をかしげるが、もらえるならと喜んで連絡を返した。


そして、いつものようにコンビニで待ち合わせ、駐車場で再会を果たした時、田辺さんは自分の車に乗らないかと勧めて来た。


「いや、それはさすがに・・・」


私は当たり前だが、警戒して首を振った。

全面的に相手を信頼していたとはいえ、これは別の問題だった。


が、温厚に見えて、意外と田辺さんはしつこかった。

そして、哀しいかな、私は押しに弱いタイプだった。


「わかりました。じゃぁ、少しだけ」


結局、私は彼の車に乗ってしまう。

だめな女である。


とはいえ、言わずもがな、身構えてしまったまま助手席に座ると、彼は、寒いだろうと早速エンジンをかけてくれた。

冬場のことである。

気まずくはあるが、いつも外で立ち話をしていただけに、暖房というものはありがたかった。

ただ、よそ様の、しかも既婚者の車だ。

いたたまれないことこの上なかった。


思わず車内をキョロキョロしてしまう私の耳には、のんびりとしたDJの声が聴こえてきた。

きっとどこかのローカル放送だろう。

決してそれをうるさくは感じないが、それでも落ち着くわけがなく、私は早速用件を切り出した。


「なんですか?渡したいものって」


「うん、これ。お土産」


「あ、ディズニーランドに行かれたんですか?」


「うん、この間行ってきたんだ」


「そうですか、ありがとうございます。かわいいですね。でも、なんでわざわざ車なんですか?外で渡してくれてもよかったのに・・・」


と、言いかけたときだった。


「ああー・・・・やっぱり。きちゃった」


この一言に次いで、私は眉をひそめざるをえなかった。


「まいったな」


田辺さんが、私そっちのけで、急にぶつぶつ一人で何かを呟きだしたからだ。

それは、明らかにうろたえているように見えた。


「どうしたんですか?」


動揺してきけば、


「いやー、あの・・・飛鷹さん、やっぱり・・・」


田辺さんは何かを言いかけていい淀んだ。

私の眉の根は更に深くなった。


「田辺さん?どうしたんですか?」


すると、頭を抱えていた田辺さんが、バツが悪そうな顔で、言ったのだ。


「あのね、電波を通して来ちゃったみたいなんだよ」


「?は?」


「入ってこないようにしたかったけどだめだった。彼らは電気と一緒なんですよ。電波を通しても来るんですよ」


「え???」


少しいらいらしたみたいに、ぶっきらぼうな言い方になる田辺さんに私はますます困惑した。


「つまり、飛鷹さんに憑いてた霊が、この車に入ってきちゃったんだよ!!」


(この人は何を言ってるんだろう?)


私は、自分が何を言われているか、この時点でまだよくわからなかった。





車内には、相変わらずのんびりとしたカーラジオがかかっていた。




そう、これが。

この後の体験こそが。

現在の霊感もどきにつながっていくなんて、この時点で誰に想像できただろう?


相変わらずいらいらする田辺さんの様にあっけにとられる私は、この時点で、自分に何が起こってるかなんて、わかるわけがなかったのだ。


そして、これこそが。

本格的に、会うはずがなかった宮藤 壱也氏と現実で出会うきっかけになるのである。


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