第8話 災厄の始まり

2011年。

それはシーラと初めて出会った年にして、私の霊感もどきが初めて目覚めた年でもある。

私だけに関わらず、サーダカーには、霊的存在が見えるようになるきっかけがあると聞く。

私の場合は、「見えるようになった」のではなく、憑く存在を「感じるようになった」が正しいので、あくまでも自分では霊感もどきと考えているのだが。


その「感じる」ようになったきっかけと、事の顛末に至るまでには、実に4人の男性が関わってくる。


一人は発端にして原因。


一人は祓うと見せかけて面倒を巻き起こす。


一人はとにかく「見て」嗤い、不安を煽り。


最後の一人は浄め祓ってくれた。


今回の件含め、様々な知識と経験をくれたのは、最後の一人、浄め祓ってくれた、宮藤 壱也という男性であった。


彼に会わなければ今の私はなく、彼らに会わなければ、私は一生そちら側の世界を知らないでいたかもしれない。


ここからは、そんな彼らとの物語を語りたい。

シーラとの話に行き着くまでに彼らの話をするのは、彼ら、というより主に藤宮氏からもらった知識を先んじてお話しておきたいからだ。


そしてこれは、当時、私が葬儀屋で働いていたころの話になる。



そう。


すべての発端は……

この男の電話から始まった。


『……もしもし』


電話口で聞いた声は、よく知った男の声だった。


「杠?」


呟いた私はどんな顔をしてたろう。

当時、まさになにもかもがうまくいってない絶頂期だった私は、この時期にもらった杠の電話を、きっと歓迎してはいなかった。


なぜなら、この男は私のことがわかってしまうから。


杠というネットで会ったその男は、恋人でも友達でもない、特殊な存在だった。

例えるのは難しいが、言ってみればその当時の杠は、私にとって自分の半身のような存在だった。

少し苦手な存在ながらも、なぜか相手と通じ合う。相手が放っておけなくて心配になる。

そんな存在。

だからこの日の電話も、いつもと同じで、他愛ない話をして終わるのだと思っていた。


が。


その日の杠は何かが違った。

電話口から伝わる微妙な空気が私の顔を曇らせた。


「どうしたの」


『うーん・・・あのよ。変なんだよ』


言葉を濁しながら。

事情を説明し始めた杠は、どことなく落ち着きがない。


『なんか、変なんだよ』


「何が」


杠はやたら煮えきらないような言い方をした。


『なんか、変なんだよ、最近』


こいつがこんなに動揺することなんて珍しかった。

何しろ今まで漫画に描いたようなひどい人生を送ってもけろっとしてた男だから。

いつだって冷静だったのに、なんだろう?


胸がざわついた。


「だから何が」


言いながら、私は不穏な空気に呑まれぬよう言葉を繋げた。


「どうしたの?」 


杠の声にはいつもの余裕がない。

明らかに何か言いにくいことを言おうとしている。


『この間店にいた女を振ったのさ。そしたらさ、それから・・・なんか、息苦しくてさ。ずっと誰かに見られてるような気がして・・』


話を聞くうちに、私の表情はどんどん険しくなっていった。


(知ってる・・・)


杠の話しているその内容は。

どこかで聞いたことがあった。


どこかで。


(思い出せ。確か・・・あのときに)


そして思い当たった瞬間。

私の声は無意識に尖っていた。


「詳しく聞かせて」


ここで、私は。

聞かなければよかったのかもしれない。

放っておけば、よかったのかもしれない。


杠を。



でも。

あの当時の私に、杠を見捨てる選択肢はなかったのだ。


そして。







私は選択を誤った。

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