第6話 懐かしきサーダカーたち
サーダカー。
それは霊感持ち、という沖縄の言葉らしい。
見える人、聴こえる人、さわれる人、いろんなタイプのサーダカーがいるが、説明がこの一言ですむので、ここからは霊感持ちの人々をサーダカーと呼ばせていただこうと思う。
私がサーダカーに会ったのは就職してからだった。
一番最初に入った職場はスーパー銭湯を経営する会社だった。
なんだ、そんなの霊と関係ないじゃないかよ、というツッコミはあるかもしれないが、ところがどっこい。
意外と不思議体験は多かった。
一番最初に研修に行った店舗の監視カメラには、深夜のお客様のいない時間にいつも佇む男性の姿を映し出していたし、最初に異動した店舗でも、貸し座の部屋で生首が浮いてるのをバイトの少年が目撃している。
そして、その後異動した先が神奈川県の新店舗だったのだが、ここでの怪異は群を抜いていた。
なんでも、その土地は、昔は山だったらしく、多くの人々が、その山を越えられずに息絶えたため、おびただしい数の遺体が存在してたとか。
その遺体を投げ込み遺棄した場所が所以で、その場所は、当時は「投げ込み塚」と呼ばれた。
これが現在のT塚である。
この地域には、現在でも、写真を撮れば必ず心霊写真が撮れる道路や、踏み入った途端空気に圧や冷気を感じる駐車場など、好きな人は喜んで馳せ参じそうなスポットが点在している。
そして、私が異動した新店舗はまさにそのT塚駅が最寄りであった。
だからだろうか。
不思議現象には事欠かなかった。
そして同時に。
この店舗には複数のサーダカーが存在した。
お食事処のホールで接客をするニーさん。
そのまぶだちのゾーさん。
彼らはホールに徘徊する霊の存在を知りながら毎日仕事をしてくれた女神たちだ。
彼らは、見える人である。
ニー「あそことあそこにいるよ。あそこにいるのは悪いやつだから」
旋「え、どこですか?あのあたり?」
ニー「し、見ちゃだめ!」
旋「見ちゃだめって、え、でも、見えないし」
ゾー「そうそう、見えなくていいんですよ、ね、ニーちゃん?」
ニー「そうそう、さ、仕事!」
待てど暮せど見えない私には、彼らはスーパーマンにしか見えなかった。
あのときは、見えない私が、「見てはいけない」理由がよくわからなかった。
しかし、今だからこそわかる。
知らぬふり、見えないふりは一番の防衛手段に他ならないのだと。
目をつけられたら、憑いてくる。
彼らはそう言いたかったのではないだろうか。
そして、浴室衛生担当の少年、新君。
彼は、霊的存在は見えないが、何かがとてつもなく強い人である。
そしてまた、そんな彼の周りにはサーダカーが多い。
例えば、新君は、住んでる場所の至るところに御札を貼って暮らすカップルとお知り合いらしい。
彼らが撮る写真はどれも心霊写真になるとかで、見せてもらった写真を見てさすがの新くんも絶句したそうだ。
そして件の新君といえば、力の込められた数珠状のパワーストーンを身につけたところ、身につけた当日に数珠が弾けたりする子だったそうなので、彼も何らかを背負うサーダカーなのだけは、私でも理解ができた。
ちなみに、これは余談だが、新君の布団に、百足が何度も入る話をきいたことがある。
夜中、気がついたら百足が布団にいて飛び起きたことが何度かあるというのだ。
なお、日本には百足の妖怪がいるらしく、大百足の妖怪は、好きな人の寝床に何度も百足を向かわせる歪曲した愛情の持ち主がいるらしい。
彼もまた、百足の妖怪に好かれていたのかもしれない。
妖怪に憑かれるとなかなか落ちないどころか、一生付きまとわれるものだから、もし数珠の弾けた原因が百足なら、それはそれで頷ける・・・と今更思う私である。
そしてノナちゃん。
この子は、オカルトが苦手で、泣きじゃくるタイプの子だったが、以降「見える」サーダカーになっていく。
そんな何人かのサーダカーがいた横浜の店舗だが、ここでのちょっとした怪談はまた後にして、以降も私の周りには何人かのサーダカーが登場する。
例えば知人で、エンパス体質の祥ちゃんは、首のない猫の死骸を見て、「可哀想」と思ってしまったが、これが原因で苦しむはめになる。
死骸を見た後から、首のあたりが苦しくてしょうがなくなったというのだ。
つまり、その猫の苦しみを背負ってしまったわけだ。
エンパス体質は特に痛みを感じやすいが、霊的な話をするのであれば、人間だけでなく動物も含め、死んでしまったものに同情や恐怖衝動は禁忌となる。
下手をすれば、相手を自分の内に取り込んでしまうからだ。
最悪の場合憑かれるだけでなく意識をもっていかれるのが関の山だ。
なので、目についた気になる対象からはあえて目をそらし、感情を移入せず「無」で通過してしまうのが一番安全なのは間違いない。
祥ちゃんに関して言えば、お寺に行ったが祓われた感覚もなく、しばらく苦しんだそうだが、久々に連絡したときには霊障はなくなっているようだったのでよしとしよう。
次のサーダカーで印象に残ってるのはW先生。
この人とは学童の仕事で出会った。
ちなみに、この人とは喧嘩するほど意見がぶつかったものだが、この人と喧嘩中にラップ音が凄かったことは今も記憶に新しい。
壁を殴るような音レベルまでくるともはやあれは霊障ではないかと思うが、まぁ、それはまた別の機会に話すことにして、W先生がサーダカーだと知ったきっかけをお話しよう。
ある日彼女が腕に包帯を巻いて現れた。
話によれば、彼女が狸を轢いて帰ってきたら、いつもは大人しい愛犬が唸り吠えたあげくに何針も縫うような怪我を負わせたというのだ。
その後彼女は酒風呂に入って簡易除霊を済ませたとか。
まだ何人かサーダカーはいた気がするが、もっと強いサーダカーと出会ったのは、まさにこの次の職場で働き始めた頃だった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます