第2話シーラとの出会い
シーラと私が出会ったのは2011年、冬。
そのとき、私自身は、シーラと意識を共有しているという自覚すらなかったから、彼女が現れてから、再び彼女が眠りにつくまでの過程は、自分が精神的におかしくなった結果だと思っていた。
実際に、シーラが出ているピーク、私は精神病院に通うまでの状態になってしまった。
が、数年後。
断薬をして何年か経ち。
私はまた彼女と見えることになる。
そのとき、私はようやく思い出したのだ。
遠い昔。
彼女と約束をしたことを。
それは、私の体を、彼女が自由に使っていい、という約束だった。
だから、再び彼女の意識が目覚めたとき、私は、やっとその約束を思い出して呆然とした。
今まで、私として生きたはずの記憶が一つもないと。
私は歌が好きだったはず。
私は、あの人が好きだったはず。
私の人生はこうだったはず。
私の両親は・・・・
そして、改めて確認するのだ。
私の半生を生きていたのは誰だったか。
私の半生を苦しんでいたのは誰だったか。
そう。
私の人生をそれまで必死に生きてきたのは、誰あろう私でなくシーラだったのだ。
私はずっとそれを傍観して自分が生きてるつもりになっていただけだった。
だから、彼女がいなくなった後、私は途方に暮れた。
どう生きていいかわからなくなったから。
あれほど好きだった音楽を続ける熱意がなくなった
。仕事すら辞めて続けようとした音楽なのに。
あれほど好きだった創作活動ができなくなった。
泉のように湧いていたイマジネーションがないので、創作小説も書けなくなった。
つまり。
私はシーラではないわけだ。
彼女の生きがいにしていたものが私には、そうでなかったのだ。
ことが全て終わったとき。
彼女の意識は消えていなくなっていたから、私は突然新しい人生を一人で歩かなければいけなくなった。
30をとうに過ぎた何もわからない状態から。
だから、彼女がいなくなった当初は毎日のように、シーラを懐かしんでいた。
戻ってきてほしかったから。
私としての思い出が何もない人生を今更生きろと言われても、私には、やりたいこともなければこの世に未練すらなかった。
だから。
しばらくはシーラを思い出して泣いたりした。
考えてみたら、彼女が私を選んだとき、似たもの同士だった私は快く彼女に体を譲ったのではなかったか。
意識が融合する前に、彼女の今までの生き方をきいて、今度こそ幸せになってもらいたいと願ったのではなかったか。
だから体を使っていいとまで申し出たのではなかったか。
なのに、今になってみて思うのは、彼女は今生も幸せな生き方をせず終わってしまったということだ。
彼女はただ、好きな人と巡り合って幸せになりたかっただけなのに。
叶えてあげることができなかった。
そんなシーラの口癖は
「生き返らせなくていいっていったのに」
だった。
うっすら読者諸君もお気づきかもしれないが、彼女は恐ろしいほど昔から、生きて死ぬを繰り返してる存在だった。
そんな彼女が人間に生まれ変わった。
それが今の私であり、うまくいっていれば、彼女はずっと私の中で眠っていた存在だったというわけだ。
ふたり、意識を共有しながら。
が、ひょんなことから、意識は、割れた。
彼女の意識が、私の中で目覚め、分離したのだ。
過去の記憶をすべて持ったまま。
そこから、私、飛鷹 旋利の人生は変わりだす。
おかしくなっていく。
そんな私のことを、ここからはお話しようと思う。
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