第2話 変わらないもの
怪我が治ってからすぐに、ボクは人間の家を出ていった。ボクはノラネコだから当然だ。それに、ボクには一人で気ままに生きていく方が性に合っている。もうあの人間に会うことはないと、そう思っていたのに……。
ボクが木の上で昼寝をしているところに、あの人間がやって来た。何かを携えてやって来た。一体何をするのか興味があった。もう会うこともないと思っていたのに、また会ったからというのもある。
人間はなにやら木にロープを括りつけ出した。それはもう丁寧に、解けないように。
ボクは人間の全ての行動を把握している訳ではない。でも、これが何を意味するか位は知っている。自殺、と言うやつだ。自ら死のうとするなんて、ボクには理解できない。いくらボクらよりも人間が優れていようと、死ねば死んでしまうのは変わらないのに。
放っておいても良かった。むしろ、人間にとってはその方が良かったのかも知れない。しかし、あの人間には借りがある。借りたくて借りた訳ではないが、それでも借りは借りだ。返さずじまいなのは性に合わない。
ボクは人間に声をかけた。どうせ意味は分からないだろうが、聞こえはしたようで、人間は顔を上げた。
「はは。なんだ、おまえ。降りられなくなったのか?」
人間はへにゃっと笑った。相変わらず言葉は分からないが、何となく馬鹿にされたような気がして、ボクは人間の顔に飛び乗ってやった。何度も言うが、ボクはネコだ。
ボクが飛び乗ったせいか、人間はバランスを崩して倒れてしまった。それとは対照的に、ボクは綺麗に着地した。人間は倒れたままだった。何も言わない。身動ぎ一つしない。流石に心配になって声をかけて見ると、目が合った。
「おまえ、お腹すいてないか? 家来るか?」
結局、ボクには人間が何を言っているのか分からなかった。曖昧な返事をするのも憚られて、ボクは返事をしなかった。人間は答えを期待していた訳ではなかったのか、ボクの返事を待たずに立ち上がった。
「さ、行こう」
人間はボクを抱き上げた。この浮遊感はどうも好きになれそうになかった。
ボクはノラネコだ。それはいつまでも変わらない。ボクが死んでからはもちろん、生きている時も。それがボクの性に合っているから。でも、少しだけ。この人間が一人じゃなくなる時までは、一緒にいてやろうと思う。
だって人間は、ウサギじゃない癖に寂しいと死んでしまう生き物なんだから。
その日まで一緒に 山田維澄 @yamada92613
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます