愛情!独力!貪利!愛憎渦巻くトレジャーハント⑥
「会場にお集まりのみなさま。本日は私の主催する行事にお越しいただき、誠にありがとうございます」
環さんの介抱をしていると、マイクを持った乙音先輩が壇上に現れた。
「さて、みなさんご存知の通り。この度は私がこのトレジャーハントの企画を発案、実行させていただきました」
乙音先輩は丁寧な口調で挨拶をしている。
「みなさまに楽しんでいただくために誠心誠意考えてきましたので、どうか最後までお楽しみいただければ幸いです」
そう言って頭を下げた乙音先輩に対してまばらに拍手が起きる。
「──とまぁ形式的な挨拶はここまで」
これで挨拶は終わりかと思っていたら先程までとは雰囲気の違う乙音先輩の声が聞こえてきた。
「これは私たちからの挑戦状よ」
乙音先輩が指を鳴らすと、いつからそこにいたのか。
乙音先輩のパートナーたち四人が乙音先輩の後ろに控えていた。
その様子に体育館に集まっている人たちはざわつき始めた。
「貴方たちだってこの学園に来てから、のうのうと堕落した生活を過ごしてきたわけじゃないでしょ? 様々な酸いも甘いも噛み分けてきたことでしょう」
ざわつきを無視して乙音先輩は話を続ける。
「なら、それを見せてみなさい。ここで培った知恵・勇気・力。そして愛情を!」
乙音先輩の煽りに反応して、群衆は熱狂的な声を上げる。
「ルールは簡単。この学園のどこかに私のパートナー四人を配置するわ。そこで四人の試練に合格し、全員に認められた者だけが宝を手にする資格を手に入れられる」
ただの簡単な宝探しゲームだと思っていたが、どうやらとてつもなく高難易度なゲームだったようだ。
エレナの凄さは一年生で同じクラスになった時に知っているが、他の三人も乙音先輩のパートナーになるぐらいだ。
きっと一筋縄ではいかないはず。
「さてダラダラと前置きを話すつもりはないわ。早速一つ目の場所のヒントを発表してゲームを開始しましょう」
乙音先輩が発表するヒントをみんなが固唾を呑んで見守る。
「最初のヒントは──時計の裏よ! それじゃあ恋文学園トレジャーハント……開始よ!」
それだけ言って乙音先輩たちは去っていった。
「……え。ヒントそれだけ!?」
ヒントの少なさに驚きを隠せない。
そう感じたのはどうやら俺だけでなく周囲も同じようだ。
「恋次落ち着いて。とりあえずこの子を保健室に連れていきながらゆっくり考えましょ」
火燐が冷静に提案をしてくる。
「あ、あぁ。そうだな。とりあえず環さんを落ち着ける場所に連れていこう」
一旦環さんを安静にさせるため、火燐の提案通りに保健室へと向かう。
「しっかしヒントが時計なんてなぁ……。一体この学校にいくつあると思ってるんだ」
環さんを背負いながら火燐と保健室へと歩いていく。
「答えが時計そのものに関係することなのか。それか時計に関係する何かなのかすら分からないのが難しいわね……」
火燐もこの問題に頭を悩ませている。
「とりあえず保健室で環さんを休ませながら、俺たちもゆっくり考えよう。時間はまだまだあるんだから」
まだこのトレジャーハントは始まったばかりだ。
気ばかり焦っても仕方がない。
「……ごめんなさい……私のせいで……」
俺の背中にいる環さんが申し訳なさそうに謝ってくる。
「なーに大丈夫だって。ゆっくり休んで回復したら、また環さんの力を貸してくれればいいさ」
安心させてあげるように優しい声音で励ましの言葉をかける。
「……ありがとうございます……」
その言葉に安心したのか、俺の首に回していた腕に力を込めて強く抱きついてきた。
「ほら、もう保健室に着いたわよ。いつまでもくっついてないで早くベッドで横になりなさい 」
その姿を見て嫉妬したのか。
火燐が忙しなく保健室に入らせてくる。
「……チッ……」
耳元で環さんは舌打ちをして、渋々俺の背中から降りていった。
(こんな調子で乙音先輩率いる四人のパートナーに勝てるのかな……)
先行きは不安だが、とりあえずは保健室で小休止することとなった。
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