愛すべき幽閉⑧
ヒュゥゥゥウウウ。
「んっ……、うぅ……寒い……」
身体に冷たい風が当たる。
「……ハッ!? ここどこだ!? ってなんだこれ!」
あまりの寒さに目を覚ますと、全く知らない場所に手足を縛られて監禁されていた。
「おいおいマジかよ……。一体どうしてこんなことに……」
気を失うまでの記憶を必死になって思い出す。
(確か乙音先輩たちのショップで指輪を買って、そこから火燐に会いに行こうとしていたはずだ──)
そこまで思い出してふと気付く。
「そうだ、指輪!」
目線を落として内ポケットの方を見る。
「よかった……、指輪は無事みたいだな」
内ポケットに膨らみがあることを確認して安堵する。
「それにしても一体ここはどこなんだ? なぜだか異様に寒いし……」
指輪を失くしていないことで気が落ち着き、改めて現状の再確認をする。
「制服を着てるから寒さはもうしばらく我慢出来そうだが……、この状況が続くと凍死しかねないな」
万が一の最悪の事態を想定する。
「それまでになんとかここから脱出しなければ」
やるべき事が決まったので、それに向けて動き出す。
「とりあえずは周囲の探索だな。なにか使えそうなものがないか探さない……と……?」
暗闇に目が慣れ始め、改めて周囲を見てみたところ言葉を失う。
「なんだ……これ……」
辺り一面に俺の写真が貼られていた。
「誰がこんな悪趣味な……」
数多の自分に見つめられているような気がして、気が狂いそうになる。
「こ、こんな場所、一刻も早く出ていかないと……!」
犯人の目的は分からないが、この部屋の状況を見るに、俺に何かしらの恨みを抱いていそうだ。
こんな場所に居ては犯人が戻ってきた時に何をされるか分かったものじゃない。
「何か……何かないのか!」
狂気的な部屋を見たことと寒さで思考能力が段々と失われていく。
手は後ろで縛られていて動かない。
脚はかろうじて動くが拘束を解くことは出来そうにない。
(そうだ、スマホ! なんとか脚の方にスマホを飛ばして足で操作をすることは出来ないか?)
自分の力ではどうすることも出来ないことが分かったので、助けを呼ぼうとする。
だが──。
「スマホが……ない!?」
胸ポケットやズボンのポケットにスマホがあるような感触はない。
(まさか殴られた時に落としたのか? なんてこった……)
今の状況で唯一の希望といってもいいスマホの存在が消え失せ、意気消沈してしまう。
(あぁ……、俺はこのままこんな場所で誰にも知られず凍死してしまうのか……)
心が折れてしまうと嫌な考えが続々と頭を巡るようになってしまう。
ガチャッ。
諦めていたその時、今いる部屋の扉が開いて外から明かりが刺す。
「お、おい! アンタ一体誰なんだ! 俺をこんな所に閉じ込めて何がしたいんだ!?」
入ってきた人物に声をかけるが、相手側からの返事は無い。
その人物はこちらに近寄ってくるが、逆光のせいで顔を見ることは出来ない。
スッ。
「……クスクス。……あと少し……」
犯人は俺の頬に手を触れ笑ったかと思うと、それだけ言い放ちまた部屋を出ていった。
(なんだったんだ今の……)
不可解な行動に怯えながらも、今の人物の姿に驚愕していた。
(声色的に女性、しかもあの手から見えた袖はウチの学校の制服だ)
同じ学校の、しかも女性に恨まれるようなことなどした覚えはないが、その女性に監禁されているのは事実だ。
(あぁ、くそ……。もうダメだ……)
そこまで考えて意識が朦朧としてきた。
『……! …………!!』
『……。…………!』
意識がもう消えかかるという時に部屋の外から誰かが言い争う声が聞こえてきた。
(誰なんだ……。共犯者か……? それとも誰かが助けに来てくれたのか……?)
消えかけの意識でよく声を聞くと、どうやら言い争いをしている相手も女性のようだ。
ガチャッ。
不意に扉が開き、誰かが入ってきた。
「──じ!」
入ってきた人物が何かを叫びながら俺の元へと走ってきて、そのまま俺を抱きしめた。
(暖かい……)
太陽の光のような温かさが俺を包む。
その温かさに安心した俺は再び意識を手放した。
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