愛すべき幽閉⑦
「はい、おかげさまで。……それでそのー……、後ろにいるエレナは……?」
戻ってきた乙音先輩に挨拶をしながら、後ろで真っ赤な顔をして俯いているエレナについて尋ねる。
「あぁ、この子ね。ほら、エレナ! もう勘弁しなさい」
「うぅ……」
乙音先輩に押し出されるように出てきたエレナは、先程までとは見間違えるほど可憐な姿をしていた。
「「「おぉ……」」」
思わず揃って歓声を上げる。
「み、見るなぁ……」
普段の威勢はすっかりとなりを潜めており、弱々しい雰囲気を纏っている。
「いやぁ、エレナ。見違えたよ」
「エレナちゃんすっごく可愛い〜!」
一花さんは店の制服に着替えたエレナをまじまじと見つめ、明日香さんは走ってエレナに抱きつきにいった。
「赤井くん、ウチのエレナはどうかしら? 可愛いでしょ」
エレナが褒められていることがよほど嬉しいのか、乙音先輩は誇らしげな顔で聞いてくる。
「驚きました。普段のエレナは知ってますけど、全然違いますよ。さすが乙音先輩ですね」
あの勝気なエレナがここまで変化することに驚きを隠せない。
「私は何もしてないわよ。エレナの素材がよかっただけ。それにしても、さすがは私のパートナーね。私の目に狂いはなかったわ」
一人納得したような顔をしている。
「……乙音先輩はエレナの顔が良かったからパートナーに?」
少しイジワルな質問だと自覚しながらも、つい聞いてしまった。
「──そうね。もちろん、容姿も考慮しているわ」
サラッとそう告げた乙音先輩。
「でもそれは私がショップを経営してるから。見目麗しい人を使うのは普通のことよ」
真剣な顔で話すので口を挟もうにも挟めない。
「でもね? 私がエレナを選んだのは完全な私情よ。あの子と実際に話してあの子の良さを知って、私が選んだの」
しかし数秒後には優しい顔でエレナたちのじゃれあいを見つめていた。
「──エレナの良い所知りたい?」
はにかんだ笑顔をこちらに向けてくる。
あぁ──。
この人はエレナに、いや自分のパートナーたちに全幅の信頼を置いている。
そして彼女のパートナーたちは、そんな彼女を信頼してここで働いているんだ。
「いえ、聞き始めたら一日が終わりそうなんで遠慮しておきます」
この人の惚気を聞いていたら時間がどれだけ合っても足りなさそうだ。
「そっ。それならいいわ」
お互いに笑い合う。
「赤井くん。最初にここに来た時よりいい顔してるわね」
乙音先輩が俺の顔を見ながらそんなことを言ってくる。
「そう……ですかね?」
自分の顔を触りながら確認してみる。
「えぇ、そうよ。多少は迷いを振り切れたかしら?」
どうやら火燐について色々と悩んでいることを見透かされていたようだ。
「はいっ。おかげさまで」
改めて感謝を告げる。
「私は何もしてないわよ。……さて、そういえば時間がかかっちゃったけど、プレゼントを探してるんだっけ?」
そうだ。
ここに来た目的は火燐へのプレゼント探しだった。
「はい、でもイマイチ決めきれなくて……」
俺がそう言うと乙音先輩は顎に手を当てて考え始めた。
「うーん、そうね。それならあれがいいと思うわ」
そう言って乙音先輩は先程の部屋に再び入っていき、出てきた時には手に石を握っていた。
「それは?」
キレイな物だがそれがなんなのかは分からない。
「これはファイアーオパール。宝石よ」
乙音先輩が持ってきたそれは炎のような色をした宝石で、燃えているように見える宝石だ。
「それを……贈り物に?」
宝石を人に渡すような機会など今まで一度もないので、ためらってしまう。
「もちろん、このまま贈るんじゃなくてアクセサリーとかに加工して贈るんだけどね。赤井くん。何か加工したいアクセサリーの案はあるかしら?」
乙音先輩の説明を受けて合点がいく。
さすがに宝石をそのまま渡すわけではなくて安心した。
「いきなり言われても……。ちょっと思いつかないです」
「そんなのもう一択しかじゃない。指輪ね」
「指輪しかないわよ〜」
「指輪に決まってるだろ!」
加工について悩んでいると、突然後ろから今までじゃれあっていた三人の声が聞こえてきてビックリする。
「ぶっ! ゆ、指輪って……。まだ俺たち学生ですよ? 気が早いしちょっと重たすぎる気もしますが……」
火燐が俺への愛想をつかさない保証もない。
「何も左手薬指に着けるために贈らなくてもいいのよ。普段使いしてくれ〜って言えばそういうアクセサリーとして使ってくれるわよ」
一花さんがそう教えてくれる。
「そういうものですかね……?」
イマイチ想像ができないがそういうものなのだろうか。
「そうよ〜。指輪だって着ける場所によって色々と意味が違ってくるからね〜」
明日香さんも続く。
「つーわけで、指輪でいいよなっ? まっ、お前が断っても私たちが加工するからもう指輪に決定なんだけどな」
エレナがケラケラ笑いながら乙音先輩の手にある宝石を掴む。
「なんだよ……、まぁ別にいいけどさ。それじゃあ乙音先輩。その宝石を指輪に加工してください」
腹を決め乙音先輩に加工の依頼をする。
「承ったわ。エレナの友達ってことで金額の方は多少はサービスしておくわね。それじゃあその辺で少し時間を潰しててちょうだい。完成したら渡しに行くわ」
「分かりました」
お言葉に甘えて、先程まで居た椅子に再度座って待つことにした。
──数時間後。
「はい。これが注文の品ね」
加工が終わって俺の元に来た乙音先輩が、ケースを開けて指輪を見せてくれた。
「ありがとうございますっ。今お金を支払いますね」
商品を受け取った俺は財布からお金を取り出して、乙音先輩に手渡す。
「──はい、ちょうど頂いたわ。ほらっ、早く行って自分のパートナーに渡してきてあげなきゃ」
身体をくるっと回転させられ出口へと向かわされる。
「本当にありがとうございました! 今から行って渡してきます!」
乙音先輩とパートナーの三人に見送られながらショップを後にする。
「さて、と……。とりあえず火燐に連絡して呼び出してっと……」
スマホを取り出して火燐宛のメッセージを書く。
スマホでメッセージを書くとこに夢中になっていた俺は、後ろから近づいてくる人の気配に気付かなかった。
「ガッ──!?」
突然、後頭部に強い衝撃が走る。
突然の衝撃に耐えきれず、前のめりになって倒れ込む。
「な、なにが……」
誰かに連絡をしようと朦朧とする意識の中、スマホを掴む。
しかし、スマホを掴んだ瞬間に俺の意識は暗闇へと沈んでいった。
──。
「……クスクス」
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