愛すべき幽閉①

 その日の教室の空気は、いつにもなくピリついていた。

 いつもならクラスのみんなが和気あいあいと話す教室が、今日は閑散としている。

(原因はーー)

 チラリと横の席を見る。

(やっぱり火燐のせいだよなぁ……)

 隣にいる俺のパートナーは、不機嫌そうな顔をして席に座っている。

(こうなった原因は先日の放送だろうな……)

 火燐がここまで不機嫌になった原因である、先日の告白大会の終わり際のことについて思い出す。

 放送で俺への告白に二人して驚いた後、火燐は焦っていた。

「一体どこの誰が……。放送室に来る人の告白対象は全員確認していたはず……」

 いや、お前は何をしてるんだ。

「お前そんなことしてたのか……。今、お前がここにいるからその間に行っただけじゃないのか?」

 やや呆れ気味に話す。

「それは有り得ないわね。事前に把握していた人以外が放送室に来た場合、私に連絡が来るようになってたのよ」

 恐るべし俺のパートナーの愛。

 まさかそこまでするとは。

「連絡って一体誰から?」

 さすがにそんなことを一緒にやってくれる人なんてーー。

「青野くんよ」

 アイツかよ。

(告白大会の最中、見かけないと思ってたらそんなことしてたのか……)

 友人との付き合い方を見直そうかなと密かに決意した瞬間だった。

「……恋次」

 考え事をしていた火燐がニコリと笑ってこちらを振り返ってきた。

 嫌な予感がする。

「もう今日は家に帰りましょう。なるべく迅速に」

 こちらをじっと見つめる火燐の目は笑っていない。

「い、いやー。今日は読みたい漫画の新刊が発売される日だから本屋に寄りたいな〜なんて……」

 もちろん新刊の発売日など嘘だが、ここで家に帰ってしまっては、しばらくの間陽の光を見れなさそうなので抵抗してみる。

「ほら、いいから行くわよ。漫画なんて私が描いてあげるから」

 有無を言わさずに首輪を引っ張られて連行される。

「えっ!? 火燐が漫画描くの!? ……いや、それはちょっと違くない?」

 別に本当に漫画が読みたいわけではないのだから。

 家に帰宅後ーー。

「おもしろっ!?」

 家に帰って火燐が描いた漫画を読んでみると、予想に反してかなり面白かった。

「ふふんっ。私にかかればこんなもんよ」

 料理を作りながらドヤ顔をする火燐。

「まさか火燐にこんな才能があったとは……」

 漫画を机に置いて感嘆の声を出す。

「私の事見直した? もっと好きになった?」

 いつの間にか近づいてきた火燐が顔を近づけながら聞いてくる。

「見直すも何も元々火燐のいい所しか知らないからなぁ……。それに好きなのは今更だし」

 素直にそう告げると火燐がキョトンとした顔をする。

 なぜだ。

「恋次がそんなに素直なんて珍しい……。なにかあったの?」

 今度は心配そうな顔でこちらを眺めてくる。

「いや……、今日あった事を自分の中で改めて反芻してみたんだ。それで、これからの自分の行動を見直そうと思ってね」

 特に聡の言葉が効いたな。

「〜〜ッ! 嬉しいっ!」

 その場で悶えたかと思うと、いきなり俺に向かって抱きついてきた。

「おっとっと……。いきなり来ると危ないぞ、火燐」

 バランスを崩しそうになりながらも、しっかりと火燐を受け止める。

「……やっぱり恋次は私のヒーローだね」

 火燐がポツリと呟いた。

「昔の話さ……」

 遠くを見つめながら返答する。

(……俺にとっては火燐。お前の方こそ、俺のヒーローなんだがな)

 遠くを見つめていると、火燐がバッと顔を上げてこちらを見てきた。

「と、言うことで、私のヒーローさん? 明日は学校休んでくれるよね?」

 上目遣いでねだるように見つめてくるその姿はとても愛らしく、並大抵の男であれば即座にお願いを聞いてしまうだろう。

「いや、学校には行くけど?」

 火燐が俺に頼み事をしてくる時は毎回同じポーズをしてくるので耐性ができている俺は、なんなくその頼み事を却下するのだった。

















  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る