告白狂想曲⑩
カチッ。
「へっ?」
いきなり聞き慣れた金属音が聞こえて、思わず目を開けてしまう。
「あっ、まだ開けちゃダメだよ!」
火燐から非難の声が上がる。
しかし、その手にはーー。
「これが私の気・持・ち♡」
見 慣 れ た 金 属。
伸 び た 鎖。
首 を 絞 め る 感 触。
「いやぁぁぁあああ!?」
思わず悲鳴を上げてしまう。
それもそのはず。
ドキドキして待っていたら、期待を裏切られたばかりか絶望をプレゼントされたのだから。
「か、火燐! これは一体どういうつもりだ!」
首に付けられた首輪を指さしながら文句を言う。
「恋次知らないの? それは首輪って言うのよ」
シレッとした顔で当たり前なことを言ってくる。
「それは知ってるよ! 俺が聞きたいのは、なんで首輪がまた俺の首に着けられているのかってことなんだ!」
せっかく苦労して逃げたのに、これじゃあ今までの苦労が水の泡だ。
「言ったでしょ? 私への気持ちは嬉しかったけど、逃げたことは許してないって」
ペロッと舌を出しながら、イタズラっ子ぽく笑う火燐。
「うっ……、まぁそうだが……」
その可愛らしい笑顔を見て、何も言えなくなってしまう。
「一週間……一ヶ月……いや、この際半年このままってのもいいわね」
ものすごく不安なことを言っている。
「ちょっと待てちょっと待て。なにが楽しくて高校二年目の生活の半分を首輪付きで過ごさなきゃいけないんだ」
一度しかない青春の一ページに首輪が入り込むなんて嫌すぎる。
「仕方ないわね。そこまで言うなら一週間で我慢してあげる」
やれやれ、といった感じで首を振る火燐。
なんで俺がワガママを言った感じになるんだ。
「もうそれでいいよ……」
これ以上文句を言うとさらに期限を延ばされかねないので、渋々ながら承諾する。
「よかった! それじゃあこれから一週間お泊まりの準備してこないと!」
「ゑ?」
ワクワクした様子でさらっととんでもない事を言っていた気がするぞ。
「どうして今外泊の話が出るんだ?」
どうか聞き間違いであってほしいと願いながら、尋ねてみる。
「え? だって、一週間首輪を着けるんだよ? それなのに、私が傍にいないんじゃ意味がないじゃない」
何を当たり前のことを言っているんだお前は、みたいな目で見られながら言われた。
「そ、そんなことを突然言ったって親の許しがないと……」
「あっ、お母さんはOKだって! お父さんの方にはまだ許可は得てないけど、絶対許可させるから心配しなくてもいいって! それに……」
お父さん……、一体何をされるんだ……。
昔からよく会っていた火燐のお父さんの今後を憂いながら火燐の言葉の続きを待つ。
「なんなら既成事実もつくってきなさい!って」
キャーっと顔を赤くしながら悶える火燐。
「き、既成事実って俺たちまだ学生だぞ!?」
一体火燐のお母さんは何を考えているんだ。
「その……恋次? 私はいつでも準備はできてるからね……?」
モジモジしながら情熱的な目をこちらに向けてくる。
「落ち着け火燐。やっぱりそういう事は軽々しくすることじゃないと思うんだ。然るべき場所、時を決めてからでも遅くはないと思うんだ」
諭すように落ち着いた口調で語りかける。
これで分かってくれるといいが。
「そうね……。で、いつにする? 明日? 明後日?」
一瞬分かってくれたか?と思ったが、全然そんなことはなかったようだ。
「火燐さん? 僕の言いたいこと分かってくれてます?」
思わず敬語が出てしまった。
「分かってるって」
「いいや、分かってないね」
ジジッーー。
不毛な会話を続けていると、ふと放送のノイズが聞こえた。
(そういえば告白大会の真っ最中だったな。結局何もせずに終わってしまったが。……それにしてもこんな時間に告白するってことはこの人が大トリなのかもしれない。耳だけでも傾けておこうかな)
火燐と言い争いをしながら、放送の内容に耳を傾けてみる。
『……一年、
透き通るような綺麗な声が聞こえた。
『……二年、赤井恋次さん。貴方のことが大好きです。貴方を私だけのものにしてみせます』
あれ。
今、俺の名前が呼ばれたような気がする。
隣を見てみると、火燐も動きがピタリと止まっている。
『……待ってて……ね。私の未来の旦那様』
それだけ言ってブツっと放送が切れた。
「「…………」」
俺と火燐は数秒間お互いに見つめ合い、そして。
「「はぁぁぁあああ!?!?」」
二人の絶叫が暗くなってきた空に響いた。
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