告白狂想曲⑨

「まったく……。私というものがありながら浮気しようなんて百年早いわよ」

 結局その後、走って俺たちの元に来た火燐。

 その目には光が宿っていない。

「「こいつが悪い!!」」

 俺たちはお互いを指さして罪を擦りつけあった。

「いやいや、何を言うのかな聡くん。元はと言えば君が俺に黙って火燐と共謀するのが悪いんじゃないか!」

「そんなことを言ったら君が小野さんの元から逃げ出さなければ、こんなことにもならなかったさ!」

 ちっ!

 ああいえばこういうやつめ!

 お互いここで命を失いたくないので必死だ。

「もういいわよ。結局は恋次が私の元から逃げようとしたのが事の発端なんだし」

 呆れ顔で俺の非を突いてくる。

「へんっ! それみたことか!」

 ドヤ顔で煽ってくる聡。

「あっ、黄井くんも人の彼氏を誘惑したから後で校舎裏ね」

「え゙っ゙」

 ドヤ顔から一転して青ざめた顔になる。

「ふんっ! ざまぁみやがれ!」

 人の不幸を笑うからだ。

「さて、と……。それじゃあ恋次、お仕置きの時間ね?」

「……え?」

 俺の聞き間違いかな。

 今、お仕置きとかいう言葉が聞こえたんだけどな。

「当たり前じゃない。私の所から逃げた事はまだ許してないわよ?」

 再び目から光を消して近づいてくる。

「ちょ、ちょっと待って! 聡、たすけーーってアイツいねぇ! いつの間に逃げやがった!」

 隣にいると思っていた聡に助けを求めたが、いつの間にかいなくなっていた。

「くそっーー、覚えてやがれ! 絶対化けて出てやる!」

 悪態を吐きながらも覚悟を決める。

 しかしーー。

 ギュッ。

「えっ?」

 どんな責め苦が来るのかと身構えていたら、なぜか抱きしめられていた。

「ふふっ、ビックリした?」

 耳元で火燐の柔和な声が聞こえた。

「……私ね、嬉しかったんだ」

 火燐がポツポツと話し始めたので黙って聞くことにした。

「恋戦の時に家族のようだって言われて、舞い上がって。それでいきなりキスしちゃったけど、恋次の本心は違ったんじゃないかって後から思ったの」

 火燐の声が少し震えているように感じた。

「一度そう思うと不安な気持ちがどんどん溢れてきてね……。もちろん、私が恋次を好きって気持ちは変わらないけど、恋次の気持ちはどうなんだろうって」

 俺を抱きしめている腕に力が入ったのがわかった。

「だから、こんな方法しか思いつかなかったの。ごめんね」

 火燐が謝ってくる。

「ごめんな、火燐。そこまで思い詰めてたことに気付かなくて」

 抱きついてくる火燐に俺からも抱きしめ返す。

「言葉にしなくても火燐には伝わってるって甘えてた。ちゃんと言葉にしなきゃ相手には伝わらないのにな」

 自分は火燐に好かれているのだという甘えが自分の中にあったのは確かだ。

「ううん、大丈夫。恋次の気持ちはさっきの電話でちゃんと伝わったから。もうこれ以上言葉はいらないよ……。だからーー」

 火燐が抱きしめていた腕を緩め、俺の顔を真正面から見てくる。

「だから、この後は行動で伝えて……」

 顔を赤らめながらジッと見つめてくる。

「い、今ここでか……!?」

 突然の注文に戸惑ってしまう。

「もし、恋次が恥ずかしいのなら私のこれからすることを目をつぶって受け入れて……」

 いきなり愛を伝えてくれと言われても、どうすればいいのか分からないのでここは素直に火燐に従って目を閉じる。

「それじゃあ恋次ジッとしててね……」

 火燐の顔が近づいたのが分かる。

(うぉぉおお!? なんかめちゃくちゃいい匂いがするんだが!? 女性はいい匂いをさせるっていうパッシブスキルでもついてるのか?)

 目をつぶって火燐の次のアクションを待つ。

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