告白狂想曲⑧
「だってさ」
聡が誰に言うわけでもなく言葉を発する。
そして先程までのピリピリした態度ではなく、いつも通りの雰囲気に戻っている。
「へっ??」
なにがなにやら分からない俺は素っ頓狂な声が出てしまう。
「いやぁ、よかったね恋次。血を見る結果にならなくて僕も安心したよ」
え、何。
俺今の答えミスってたら血を見ることになってたの。
怖い、なにそれ。
「お、おいっ、聡! これは一体どういうことなんだよ!」
説明を求めて聡に詰め寄る。
「まぁまぁ、落ち着きなよ。今から説明するからさ」
聡に諭されベンチに座り直す。
「ったく……。どういうことなのかちゃんと説明してもらうからな」
終始分からないことだらけに加えて、このままだと俺は責められ損だからな。
「うーん、恋次にとってはちょっとショッキングなことだけど大丈夫?」
心配そうにこちらを見つめてくる。
「おう、どんとこいだ」
さすがにそこまで衝撃的なことなんて来ないだろう。
「それじゃあ、これを見て欲しいんだけど」
そう言って聡が差し出してきたのはスマホだった。
「……ん? それがどうしーー」
画面に表示されている文字を見て固まる。
『通 話 中 小野 火燐』
スマホにはとんでもない文字が記されていた。
「うわぁぁぁあああ!!??」
そして思わず絶叫をしてベンチから転がり落ちてしまった。
「だから言ったじゃないか……。大丈夫かい、恋次?」
聡の手を取って立ち上がる。
『ずいぶん楽しそうじゃない、恋次』
スマホから地獄の底から聞こえてきそうな声が聞こえてきた。
「うわぁぁぁあああ!?!?」
またしても悲鳴を上げてその場に転んでしまう。
「恋次!?」
聡が心配そうな声を掛けてくる。
「だ、大丈夫だ……。カハッ……」
血反吐が出そうになりながらフラフラと立ち上がる。
『まったく……。私から逃げようとするからそうなるのよ』
火燐がため息混じりに呟く。
(あれ……? もしかしてあんまり怒ってない?)
なーんだ、俺のビビり損だったのかーー。
『これは帰ってからのお仕置きが楽しみね』
前言撤回。
このまま海外にでも逃亡したい気分だ。
「ちょ、ちょっと待て! 一体お前らはいつから繋がってたんだ!」
火燐から逃げて聡と出会うまで特に不可解な点はなかったはずだ。
「いつってそれは……」
『最初からよ』
もう誰も信じられない。
俺の心が脆かったら人間不信になってもおかしくないぞ。
「じゃあ聡があそこにいたのって……」
俺がトイレから逃げた先に聡がいたのは偶然ではなく、俺を探していたってことなのか。
「君を探してたんだよ。さすがに偶然、あの場所を歩いていたなんてことは少し考えれば分かるかなって思ったんだけどな……」
聡が憐れむような目でこちらを見てきた。
「えぇい、うるさい! あの時は逃げたばかりで気が緩んでたんだよ! それで通話! 通話の方はいつ繋げたんだよ!」
普段なら絶対気付いてたね。
80……いや50……25%ぐらいの確率で。
『数十分前に黄井君から連絡がきたのよ。それでその時に今回の作戦を提案されたのよ』
数十分前というと、飲み物を貰った時か。
つまりその時に火燐に連絡したのか。
……ん?
「いや、お前からあの尋問を提案したのか!?」
思わず聞き流しそうになったけど、さらっととんでもないことを言われた。
「うん、僕発案の作戦。どうだった? うまくできたでしょ?」
ケラケラと笑いながらドヤ顔を見せてくる。
「いや、ホント演技が上手すぎて本気かと思ったぞ……」
この学校に主演男優賞があったら受賞間違いなしだろ。
「まぁまぁ、そう落ち込まなくても。君はやられたって思ってるかもしれないけど、喜んでる人もいるんだよ?」
そう言ってスマホを指さした。
『いや、まぁ……。嬉しくないと言ったら嘘になるわね……』
火燐が照れながら反応する。
おや、この反応は?
「まったく……。お前らにはしてやられたよ。じゃあ俺ちょっとトイレ行ってくるからまた後でな」
火燐が油断している今ならさり気なく逃げられそうな気がしたので、トイレに行くふりをして逃げようとする。
『逃がさないわよ! 黄井くん! 恋次を捕まえておいて!』
俺が逃げようとしたことに気付いた火燐が聡に指示を出す。
「了解!」
聡もそれに乗って俺を捕まえにきた。
「くっ、やめろ聡離せ! ……ってちょっ! お前どこ触ってるんだ!」
聡が飛びかかってきたことで、俺たちは絡み合うようにその場で重なった。
「そ、そういう恋次こそ。どこに手を入れてるんだい……」
えっ!?
俺、今聡のどこを触ってるんだ。
『ちょ、ちょっと! パートナーの目の前で浮気するつもり!? 待ってなさい! 今私もそっちに行くから! ……あれ? 男同士も浮気に入るのかしら?』
それだけ言ってから通話が切れた。
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