告白狂想曲⑦

「どう思ってるかって……?」

 不意な問いかけに言葉が詰まる。

「そのままの意味さ。ついこの間にはあんなに大胆な事をしていたのに、今日はその当人から逃げてきたとかでこの有様」

 冷たく言い放ってくる聡。

「それは……」

 急な態度の変わりようと、今まで見たことのない親友の顔にたじろいでしまう。

「言い淀むということは、後ろめたいことがある……と考えていいんだね?」

 聡の追求の手が止まらない。

「そ、そんなことはない!」

 一体どうしてこうなった。

 頭の中ではその言葉だけが反芻される。

(さっきまで普通に喋ってたよな……。バッタリ出会った後、このベンチまで来てから聡が飲み物を買ってきてくれ飲んでいたらこの状況……)

 ダメだ、さっぱり状況が飲み込めない。

「ふーん。その言葉は本当かな?」

 聡の冷めた態度は続く。

(くっ……! 一体どう答えれば正解なんだ……!)

 なぜこのような態度をとられているのかすら分からないこの状況では、事態の改善を目指すのは難しい。

(それなら今は事態の把握に努めよう)

 会話を続ければ、なにか突破口を見つけられるかもしれない。

「本当さ。火燐とパートナーになった事に後ろめたいことなんて一つもない」

 これは本当のことだ。

「でも君と彼女の間には一つすれ違いがあるんじゃない?」

 唐突に痛いところを突いてくる。

(これはおそらく俺が火燐のことを家族だと思っていると言った時の話だろう)

 しかしなぜ今その話をするんだ。

「君は彼女に親愛の情を抱いていた。しかし、彼女は君に愛情を抱いていた。これは致命的なすれ違いだと思わないかい?」

 先程より口調は柔和になったが、追求されていることは全然穏やかではない。

(実際、当時はその場の雰囲気で流れに乗ったが時間が経つにつれて自分の中にシコリが残ったのは確かだ)

 だが、自分にやれる事はなくただ時間が過ぎていくのを待っているだけだった。

「で、でも今はちゃんと火燐のことがーー」

「今"は"好き……とでも言うつもりかい? 流されて培われた感情が正しいとでも?」

 ハッと嘲笑気味に笑われる。

「君、本当に小野火燐の事が好きなのかい?」

 そしてついに核心をついた質問がきた。

(まさか……)

 今までのやり取りで一つの可能性が思い浮かぶ。

(まさか、聡も火燐のことが好きなのか!?)

 そう考えれば合点がいく。

 俺と出会って人気のない場所へ連れてきたのもこのためだったのか。

「あぁ、好きさ」

 いくら親友だからといっても、火燐を渡すつもりはない。

「性懲りも無く同じことを言うんだね。いいよ。この際、僕が言ってあげる」

「君は幼なじみとしての小野火燐が好きなのであって、パートナーとしての小野火燐に対しては特別な感情を抱いていないんだ」

 まるで機械のように冷徹な言葉を告げてくる。

「まだなにか反論でもあるかい?」

 勝ち誇ったような顔でこちらを見てくる。

 …………。

「確かに始まりはさ。あの時のキスだったかもしれない」

 ポツポツと自分の内心を話し始める。

「今までずっと幼なじみをやってきてたのに、いきなり好きだって言われてキスもされてさ。まいっちゃうよな」

 ハハハッと自虐的に笑う。

「俺は火燐のことをさ。ずっと傍にいてくれるだけでいいと思ってたんだよ。あの容姿に文武両道。俺だけじゃなく、みんなにとっても高嶺の花さ」

 聡は静かに俺の言葉を聞いてくれている。

「そう思うと、俺は火燐に遠慮してたのかもな。俺なんかが火燐を好きになっていいものかって。でも、そんな考えもあの時のキスで変わったんだ」

 聡の目を真正面から見据える。

「火燐がどれだけ俺のことが好きなのかが伝わってきたんだ。そんな気持ちを受け取ったら、俺の悩みなんか些細なことだったんだって気付いたんだ」

 一度大きく息を吸い込む。

「周りから見れば空虚で嘘偽りな愛だと思われるかもしれない。だけど、俺はこれを自他ともに認められる真実の愛にしていこうと思ってる」

 普段ならこんな歯の浮くようなセリフは絶対に言えない。

「だから、どうか見守っててくれ。頼むっ」

 それだけ言って、聡に頭を下げる。

「…………」

 頭を下げているので相手の表情は分からない。

 沈黙が場を包んだ。






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