告白狂想曲③
時間が経つのは早く、もう告白大会当日になってしまった。
「はぁ……、学校行きたくないな」
学校に行けば告白大会なんかより酷い目に遭うのは明白だ。
「だけど、休んだら休んだで先生に睨まれるんだよな」
これ以上先生に目をつけられるのはよくない。
「……仕方ない。学校に着いたら男子トイレにでも隠れているか」
さすがの火燐も男子トイレにまでは来ないだろう。
学校に着いた後の行動を考えながら玄関の扉を開ける。
ガチャッ。
(手に首輪を持って満面の笑みをしている火燐)
バタン。
「ふぅ……、疲れかな? なにかよくないものを見たような気がするな」
恐ろしい程の満面の笑みでこちらを見つめている火燐の姿が見えた気がする。
(いや、さすがにいるわけないよな……。うん、あれは幻覚だ。大丈夫……)
自分に言い聞かせながら、今度は玄関をそーっと開ける。
ドアの隙間から周囲を見渡すが、火燐の姿は見えなかった。
(やっぱりさっきのは幻覚だったんだな)
ガッ。
ホッとしていると、開けていた扉の隙間から足が差し込まれた。
「ヒィィィイイイ!?」
いきなり足が出てくるという恐ろしい現象に、思わず悲鳴をあげてしまう。
なに!?
借金取り!?
「おはよう、恋次」
腰を抜かしていると、扉を開いて火燐が入ってくる。
その手には例の首輪が握られていた。
「お、おおおおおはよう! 朝早いんだな、火燐は!」
恐怖で呂律が回らない。
「待ちきれなくて早く来ちゃったんだ♪」
上機嫌に首輪を弄びながら笑顔を見せてくる。
「あ……ああ……」
もはや言葉も出てこなくなった。
「それじゃあ恋次ちゃーん。お散歩の時間ですよー?」
本当のペットに話しかけるような感じで話しかけてくる。
「く、くるな……! や、やめっ……うわぁぁああ!!」
『ザワザワ……』
通学路を歩く俺と火燐を見て、周りの人達からざわめきが起き上がる。
それもそうだろう。
男の方は首輪を繋がれ歩き、女の方はその首輪から伸びる鎖を手に持って歩いていれば誰だって注目を浴びる。
「ふんふふーん♪」
件の火燐は上機嫌に鼻歌をうたいながら歩いている。
(まさか直接家に来るなんて予想してなかったな……)
逃げる作戦を立てていたのに、これでは逃げようもない。
(これは学校で逃げる隙を見つけるしかないな)
作戦を立てながら歩いていると、いつの間にか学校に着いていた。
周りの反応は相変わらずだ。
「おーっす、恋次ーー。すみません、人違いでした」
郷が俺に挨拶をしてきたと思ったら、そのまま踵を返して逃げようとしていた。
「おい、待て。逃げるな!」
逃げようとする郷の肩を掴んで、制止する。
「やめろ、離せ! 俺には学校に首輪を着けてきてSMプレイに勤しむ友人なんかいねぇんだよ!」
お互いに掴みあって言い合いのケンカになる。
「こらっ、恋次! ハウス!」
「ぐえっ!?」
首輪を引っ張られて火燐の元へと戻される。
「ウチの子がごめんね。青野くん」
誰がウチの子だ。
「いやいや、大丈夫だ。これからもしっかり指導してやってくれ」
おい、お前もか。
犬の散歩中にご近所さんに出会った感じで、世間話をしている。
(もしや今のうちに逃げ出せるのでは……!?)
そーっと校舎に向かって歩き始めたが、火燐の手はガッチリと鎖を握っていた。
「あら、恋次。校舎に行きたいの? ごめんね、青野君。ウチの子が校舎に行きたいらしくて」
郷との会話を打ち切って、俺を引っ張りながら校舎へと歩いていく。
(郷! 助けてくれ!)
最後の望みとして郷に助けを求める。
「いや、大丈夫だ。ペットの言う事を聞くのも主人の役目だからな」
手を振って俺と火燐を見送ってくる。
(俺も自分の命が大切だからな。頑張ってくれ、ペットくん)
そして、今度こそ踵を返して行ってしまった。
「この、薄情者ぉぉぉおおお!!!」
俺の絶叫が学校中に響き渡った。
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