荒れ狂う嫉妬の炎⑦

『ザワザワ……‼』

 会場のザワつく声が遠くに聞こえる。

 火燐にキスをされていることに気付いたのは、数秒経ってからのことだった。

(んんーーーー!!??!?)

 あまりにも突然のことで悲鳴を上げたいが、口を塞がれているためくぐもった音しか出ない。

「んっ……」

 火燐が艶かしい声を出す。

 こんな場所でのキスという公開処刑から逃れようとするが、身体をガッシリとホールドされているため逃げられない。

(くそ……! 一体どうすればこの状況を止められるんだ……)

 そんな時、ふと一つの作戦を思いつく。

(そうだ! 世の中には、押してダメなら引いてみろという言葉がある)

 それに倣って、逃げようとするのではなく反対にこの流れに身を任せてみようと考えついた。

 そうと決まれば行動あるのみ。

 早速俺も火燐の腰に手を回し、身体をさらに密着させる。

(よし……、これでどうだ!)

 すぐに効果は現れたようで、俺を拘束している火燐の手が緩んだ。

(あれ、これって逆効果ーー)

 そう思った時には、すでに遅かった。

 拘束が解かれたかと思うと、今度は身体に浮遊感が包んだ。

 先程まで目の前一杯にあった火燐の顔が会場の天井を映している。

 そう、今の一瞬で俺は地面に押し倒されたのだ。

 視線を火燐の方へと移すと、自分の服をはだけさせながら俺の服へと手をーー。

「ストップ、ストーーーーップ!!」

 さすがにこれ以上はまずいと判断して大きな声を上げて火燐を制止する。

「チッ、いい所だったのに……。どうして止めるの?」

 あら、やだ。

 この子ったら舌打ちしましたよ、奥さん。

「どうしてって……その……」

 考えろ……!!

 ここで回答を間違えると、学校でいきなり子作りを始めたという恐ろしい悪評がついてまわる……いや、そもそも学校に居られなくなってしまう。

「は……初めてはベッドがいいな」

 普通言う方が逆だろとツッコまれていそうな雰囲気があるが、なりふり構っていられない。

 チラリと火燐の方を見てみると満面の笑みでこちらを見ていた。

(どっち! その顔はどっちなんだ!)

 内心ビクビクしながら火燐の動向を見ていると、はだけた衣服を元に戻し、膝についた土埃を手でサッと払い立ち上がった。

 よ……よかった、なんとか大丈夫だったか……。

「まったくもう……、そうならそうと早く言ってよね」

 倒れている俺に手を差し出してくる。

「お前が話も聞かずに、いきなりキスして押し倒しをしてきたからだろうが……」

 その手を掴んで立ち上がる。

「だって……、恋次がいきなり家族とか嬉しいこと言うから……」

 モジモジと照れながら言い淀む。

「?? どうしてその言葉にそんなに反応するんだ?」

 俺的には家族ぐらいお互いをよく理解している、ぐらいの意味合いだったんだが。

「家族……つまり私と恋次は夫婦ってことでしょ? 夫婦なら子どもの一人や二人必要でしょ?」

 あー、はいはい。そういうことでしたか。

 お互いに認識のズレがあったみたいだな。

(でもどうする……、ここでまた野暮なことを言ってしまうと機嫌を損ねてしまうかもしれない)

 今日一日ずっと使い続きの頭を酷使して対処法を考える。

「んー、オホンッ! もういいかな?」

 頭を捻りながら考えていると、今までの俺たち痴態を静観していた小金井が咳払いをしてくる。

「あ、あぁ。すまん、待たせたな」

 内心ではナイス小金井!と思っているが、それは顔に出さずに対応する。

「それで? 能力は出せるようになったのか?」

 そうだ、本題はそれだ。

「どうだ、火燐。能力は出せそうか?」

(とは聞いてみたものの……、さっきのキス以外特に何かをしたわけではないんだよな)

 そんなことで出せるようになってたら、全員能力が使えるようになってるだろう。

「少しやってみるね」

 そう言うと火燐は手に力を込め始めた。

 まぁ、やるだけやらせてみるか。

 どうせ無理だろうけどーー。







  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る