荒れ狂う嫉妬の炎⑥
(あれ……、アイツどうして能力を使わないんだ?)
ふと感じた違和感はそれだった。
小金井側は小金井含め全員何かしらの能力を使用して戦っている。
それに対して、火燐は最初に見せた超人的な身体能力のみで乱入した時から今まで戦っている。
先程までは水子に対して、優位に立っていたがそれは一対一でのこと。
多対一では、その身体能力をフルに活かすことが出来ず、防戦一方になっている。
「お、おい。火燐!」
耐えきれずに火燐の名を呼ぶと、火燐が一瞬で目の前に現れる。
「どうしたの!? どこか怪我したの? それともそれとも……」
いきなり俺が呼んだことで気が動転しているのか矢継ぎ早に心配をしてくる火燐。
「これは……!?」
そして小金井にやられた傷跡を見るや否や、憤怒の形相をする火燐。
「……アイツにやられたのね」
すっと立ち上がって小金井の方へと向かおうとする火燐。
立ち上がった拍子に傷だらけになった火燐の身体が見えた。
「火燐……お前、その傷……」
思わず声に出してしまった。
その声が聞こえたのか火燐は立ち止まり、倒れている俺の目線に合わせるようにしゃがんだ。
「これぐらいの傷大したことないよ。それにね……」
火燐は俺の目をじっと見つめ、言葉を続ける。
「私の頭の天辺から足の爪先まで、全て恋次のために存在してるんだよ。今、この身体を貴方のために使えている状況は私にとって、すごく幸せなことなんだよ?」
自己犠牲にも似た愛情を告げてきた火燐。
素直に嬉しい反面、困惑も大きい。
(どうしてそこまで俺の事を……)
火燐はここまで俺のために尽くしてくれているのに、俺ときたら……
「話はもう終わり? 恋次も疲れてるようだし、早めに終わらせてくるね? ……それに欲しいものも出来たし」
考え事をしていると、火燐が踵を返して三人の元へ向かい始めようとする。
……最後の方に何か言っていたがよく聞き取れなかった。
「あぁ、いや。待ってくれ。聞きたいことは他にもあるんだ」
火燐を呼び止め本題を切り出す。
「火燐、どうして他の人みたいに特殊能力を使わないんだ?」
そう尋ねると火燐は困ったような顔をしてしまった。
「それがね……、使えないのよ。能力」
「ゑ?」
予想外の答えに変な声が出てしまった。
(使えない……? 能力を使うのに必要な物はお互いの想い以外特にないはずだが……)
そこまで考えて、ふとした事に気付く。
(まさか……、俺。火燐のことが好きじゃないのか!?)
とてつもない事実に気付いてしまう。
(いやまさかそんなはずはないと思うが……。昔から一緒にいてお互いに気心知れた仲だ)
そこまで考えてまた気付く。
(気心が知れ過ぎて恋心を通り過ぎてしまったパターンなのか!?)
頭の中で考えがグルグルと回り始める。
考えがまとまらない中、目の前で心配そうにこちらを見ている火燐の姿が目に入った。
(……よし!)
「小金井!」
決心を固め、立ち上がりやり取りを静観してくれていた小金井へと声をかける。
「なんだ、ライバルよ!」
相変わらずのライバル認定は無視して話を続ける。
「お前、特殊能力を出す時ってどんな感じで出してるんだ!」
「気合いだ!!!!」
よし、アイツに聞いた俺がバカだった。
「おーい、そっちの三人にも聞いておきたい。どんな感じで能力を使ってるんだ?」
今度は取り巻きの三人にも聞いてみる。
「どんなって……」
「聞かれても……」
「ねぇ……?」
突然相手から能力の使い方を教えてくれと懇願され、さすがの三人も困惑しているようだ。
「明確なものは教えられないが……そうだな。強いて言うなら、好きな人を思い浮かべ、その想いが溢れる感じだ」
少しすると三人を代表して、風子がかなり抽象的なことを言ってきた。
「……火燐、分かったか?」
隣にいる火燐へ聞いてみる。
「うーん、恋次への想いなら溢れるぐらい持ってるんだけどな……?」
サラッと照れることを言ってくる火燐にドギマギしていると、今度は炎を出していた女子生徒が話しかけてきた。
「あっ、もしかしたらキミ等。想いが通じあってないんじゃない?」
俺が言うまいとしていた事を軽々と言ってのける炎子。
(痛い!! 隣の火燐からの視線が痛い!!)
火燐は先程から俺に対する想いを告げている。
そうなれば必然的に"俺が"火燐のことを好きではないという結論になってしまう。
「ちちち違うぞ、火燐! 別に火燐のことが好きじゃないとかそういうわけではーー」
「そういうわけではないなら……どういうわけ??」
瞳孔が開いた目で、こちらを凝視してくる火燐。
そして、岩を使っていた女子生徒の能力で俺と火燐の間に壁を作る取り巻き三人衆。
おい、卑怯だぞ。
しかし、そんな文句を言う暇もなく火燐がこちらに近づいてくる。
「……〜〜!! だから! 火燐とは付き合いが長いだろ!? そのせいで恋愛感情を持つなんて難しいんだよ!」
「ふーん……、じゃあ私は恋次にとってただの幼馴染でしかないわけ?」
火燐の語気が強まる。
「違う違う! その……今更恋人とかの段階じゃなくて……言うなればもうすでに家族と同等と考えてるんだ」
うぉぉ〜……‼
言ってしまった……‼
顔から火が出る程火照ってしまい、思わず火燐から目を逸らそうとする。
ガッ!
しかし、火燐の両手に顔を掴まれ目を逸らすことは叶わなかった。
「あのー……、火燐さん?」
俺の顔を掴んだまま下を向いている火燐に声をかける。
「……嬉しい」
その言葉が聞こえたと同時に、俺の視界が火燐の顔で埋まった。
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