荒れ狂う嫉妬の炎①

 宣戦布告をされた翌日、落ち込みながら学校へと向かう。

 (はぁ……、憂鬱だ。どうして俺がこんな目に遭わないといけないんだ)

 「よーっす!どうしたんだい、そこの道行く少年! 随分と景気が悪そうな顔をしているじゃないか!」

 後ろから随分と元気な声が聞こえてくると同時に身体に衝撃が走る。

 「ふぐぅ!?」

 なんとか倒れまいと踏ん張る。

 あっ……、今腰から聞こえちゃいけないような音が……。

 「い、一体誰なんだ……。俺の腰になんの恨みが……」

 小金井の手の者か、お主……。

 「あ、ひっどーい! この超絶美少女な幼馴染ちゃんを忘れるなんて……、およよ……」

 かなり棒読みな嘘泣きが聞こえてくる。

 「お前……、火燐か……」

 幼い頃から聞き覚えがある声に反応してしまう。

 「そうだよ! 君の幼馴染の小野火燐おの かりんだよ!」

 無邪気な声で堂々と自己紹介をしている。

 「……なんかキャラ違くね?」

 テンションがいつもより高い気がする。

 「あ、分かる? 久しぶりに恋次に会ったらテンションがつい上がっちゃってね〜」

 落ち着いたのか普通の喋り方に戻る火燐。

 そういえば昨日会わなかったな。

 「そういえば俺のクラスと違うんだな。今までも一緒だったからまた今年も一緒になるかと思ってたぞ」

 よくよく考えてみれば、今までずっと一緒のクラスだったのに今回だけ別れるなんて意外というか予想外だった。

 「…………そうなんだよねぇ。君のことはずっと見てたのに。……ずーっとね」

 最後の方はあまり聞こえなかったが、俺と一緒のクラスになれなくて落ち込んでくれているようだ。

 そう思ってくれているとなると、地味に嬉しいな。

 「……こんなことになるなんて、もっと校長に圧かけておけばよかったかな」

 火燐が何かブツブツと言っている。

 「どうした? 何かあったか?」

 声をかけられた火燐は首をブンブンと横に振る。

 「う、ううん。なんでもない。そ、それよりさ! 昨日から話題になってるんだけど、早速恋戦を申し込まれんだって?」

 ゲッ。

 もう話題になってるのか。

 それもそうか。初日からいきなり恋戦をやるなんていい注目の的だろう。

 「もう他のクラスの耳にも入っているのか……。みんなして一体どこから情報を仕入れてるんだ」

 割と大きな声を出していたとしても教室内の出来事だったのにな。

 「あっ、そういえば昨日青野君が他のクラスの知り合いに言いふらしてたよ」

 あの野郎……‼

 まさか味方と思っていた人間に裏切られるなんて、裏切り者には処刑が必要だな。

 「アイツの処罰はこの勝負が終わった後に考えるとして、今回の勝負どうするかなー」

 結局対抗策はほとんど何も思いついていない。

 向こうの戦力は増大。

 こちらの戦力は己の身体のみ。

 ……アレ? もしかして詰んでる?

 「……もしよかったら私が出てあげようか?」

 突然火燐がそんな提案をしてくる。

 「その心遣いは非常にありがたいが……」

 さすがに今回の件にあまり関係のない火燐を巻き込むのは心苦しい。

 「幼馴染だからって関係性に甘えて火燐に迷惑をかけられないからな。自分なりに頑張ってみるよ」

 いつまでも幼馴染だからって頼りっぱなしになるのは迷惑かもしれないからな。

 「……に……女……の?」

 火燐が何かを呟くがイマイチ聞こえない。

 「今なんて言った?」

 思わず聞き返す。

 「他に女がいるの?」

 先程までの快活な声色とは比べ物にならない程ドスの効いた声で質問される。

 ……い、一体どこで返答を間違えた!?

 特に間違えた覚えがないがここで返答を失敗すると明日の朝刊に通学路の惨劇として一面を飾ることになってしまうだろう。

 (それだけはなんとしても阻止せねば……!)

 「な、なにを言ってるんだ火燐! 俺はこの学校でパートナーができない落ちこぼれだぞ?」

 ゆっくりとした足取りだが着実にこちらへと近づいてくる火燐に恐怖を抱きつつも、声をかけていく。

 「そ、それに今のは火燐を大切に思っているからこその発言なんだ! 幼馴染のお前に危ない目に遭ってほしくないんだ」

 多少過剰に演技をしているが、嘘は言ってない。

 ……うん、嘘は言ってないな。

 途中から自信がなくなったが、なんとか効果があったようで火燐の雰囲気は柔らかいものになった。

 「……なーんだ! それならそうと早く言ってよね! 全く……恋次は照れ屋さんなんだから〜」

 機嫌が直ったのか上機嫌で歩いていく。

 (よ、よかった……‼ なんとか危機は回避出来た)

 小金井の恋戦前に致命的な怪我を負うところだった。

 それもよかったかな? なんて少し思ったりもしつつ火燐と一緒に学校へと向かった。



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