新学期③
全員に資料が行き渡ったのを見ると先生は話し始めた。
「えー、みなさんも知っての通りこの恋文学園では通常の文事と武事のみならず学生の恋愛も推奨しています」
この学校は学生の恋愛すらも成績に考慮される、特殊な学校なのだ。
なので、学生は文武両道ならぬ文武恋の三道を極めねばならない。
「一年生の間に勉強や運動を頑張り自分自身を磨き、多くの人がパートナーを見つけているのではないかと思います」
先生は配慮してなのか"全員"とは言わなかった。
そう、俺みたいにパートナーがいない人間もいるのである。
もちろん、そう簡単にパートナーが見つからないというのもあるが別の理由も存在する。
それはーー。
「さらに複数のパートナーを見つけている優秀な人も少なからずいるようですね」
複数恋愛が可能という理由だ。
男性が多くの相手にというのもあれば、反対に女性が多くの相手にというケースも存在する。
しかしながら、多くのパートナーがいる者のみが優秀と判断されるわけではない。
一人の相手に対して想いを貫き、その愛が大きい程優秀と判断される場合もある。
ではどうやってその愛の大きさを測るのか?
「みなさんも2年生になり、パートナーを見つけることが出来ました。なので、これからは"恋戦"《れんせん》が行えるようになりました」
先生が教室の電気を消し、スクリーンへ映像を映し出す。
そこには男女のパートナー二組が手から炎や水を出し戦っている映像が流れている。
パッと見ただけではそこらのアニメか合成映像かと思うだろう。
しかし、これはこの学校の特殊な磁場と特殊な機械により為すことができることらしい。
……詳しいことは一介の学生なんかには分からないけどな。
映像が終わりスクリーンを片付けて電気がつけられる。
「最初は怖いかもしれませんが段々と慣れていきますので安心してください。それに、怪我などの心配もないので安心して恋戦をしてくださいね」
サラリと言う先生。
いや、いきなり火や水を使った異能力戦闘をしてくださいなんて言われて、「はいそうですか」と言える生徒なんて数少ないはず。
教室の生徒も興味半分怖さ半分と言った感じで話を聞いている。
「もし怪我をした際の保証なども今配った資料に書かれているので、しっかりと目を通して保護者さんにも渡してくださいね」
それを聞いて安心する生徒たち。
「さて、それでは今から軽くですが恋戦についての説明をします」
チョークを手に取り黒板に文字を書いていく。
「恋戦は教師の立ち会いの元やっていただきます。勝敗はどちらかが降参を宣言すること。それ以外でもお互いが納得すれば勝敗の条件を変えられたり勝負の形式を変えられることができます」
お互いの合意さえあれば自由に変更可能で自由度が高いようだ。
「またこちらも合意さえあれば何かを賭けて勝負することができます。……もちろん金銭などが絡む不適切なものは事前に取りやめさせてもらいますがね」
ハハッと軽く笑う先生。
「そして、パートナーがまだいない生徒が恋戦をする場合は殺傷能力のない武器をこちらで用意しますので、そちらを使用してください」
なんとまぁ無茶を言う……。
そんな棒きれで魔王に挑むような真似をする人間はいないだろ。
「大まかな説明はこれぐらいです。後は実際にやってみるのが一番だと思います。それか恋戦が行われている場合には観戦することも可能なので、そちらを見てみるのもいいでしょう」
先生は書類をまとめ始める。
「これで今日のHRは終了です。もしなにか質問があれば職員室に来てくだされば答えます。それではみなさん気をつけて下校してください」
そう言って教室を出ていく先生。
……さて、学校も午前中の早い時間に終わったことだし郷や聡を誘って遊びにでも出掛けようかな。
「おい、赤井君」
遊びの誘いをするために立ち上がろうとした時に小金井に声をかけられた。
嫌な予感がする。
「……なにか?」
なるべく目を合わせずに嫌そうに返事をする。
「全く……、人と話す時は相手の目を見て話せと言われているだろう」
ブツブツと文句を言ってくる。
「なんだいなんだい。ただ文句を言うためだけに声をかけてきたのかい? 俺はこれから高校生らしく街へ出て遊びに行くんだ。用がないなら散った散った」
シッシっとジェスチャー付きで追い返そうとする。
「君に"恋戦"を申し込む」
身体の動きが止まる。
イマ……コイツハナンテ……?
「はぁぁぁあああ!?!? 何言ってんだお前!」
まさか初日が終わってからいきなり申し込まれるとは思っていなかったので焦りの声が出る。
いや、興味はあったけど!
それとこれとは話が別だ!
俺の声に気付いたクラスメイトや郷、聡らが近寄ってくる。
「おや? まさか君は僕が怖いのかい? それなら無理を言って悪かったね」
はい? この俺が? お前を? 怖がっているだって?
はっはっはっ、言うに事欠いてそんなことか。
そんな位でこの俺の炭化チタン並に硬い精神を追い込もうとでもいいのかね?
「上等だ、テメェ。やってやろうじゃねぇか!!」
耐えられなかった。
「あっ、おいバカ」
後ろから郷の声が聞こえてきた。
しかし時すでに遅し。
「みんな今の言葉聞いたかい? 赤井恋次君は快く僕の申し出を受け入れたくれたようだよ」
クラスメイトの方を向きわざとらしく声を上げる小金井。
こ、このやろう。小賢しい真似を……‼
クラスメイトを証人に仕立てあげて俺に勝負を降りさせないつもりだ。
「では勝負はまた明日。細かいルールなどは勝負の前に決めようじゃないか。逃げ出さないでくれたまえよ?」
そう言って去っていく小金井。
やられた…‼
まさかアイツが俺を潰すためにこんな早く行動を起こすなんて思ってもみなかった。
落ち込む俺の両肩に郷と聡の手が置かれる。
「「ドンマイ」」
このまま本気で不登校になろうかと検討した高二の春だった。
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