新学期②

 「はい、みなさん。席に着いてください」

 教室の扉を開けて初老の男性教師が教室へ入ってきた。

 温厚で有名な早乙女先生だ。

 怒った所は見たことないが怒るとかなり怖いとは聞く。

 しかし基本的には優しい先生なので生徒からは好かれている。

 「みなさん進級おめでとうございます。二年生では一年生の頃よりも勉強も難しくなったりと、色々と大変だとは思いますが一緒に頑張っていきましょう」

 クラスメイトが拍手をする。

 「それではクラスの初顔合わせですので、順番に自己紹介をしていってもらいましょう」

 先生はそう言って郷の方を見てニコリと微笑んだ。

 郷はそれで察したのか立ち上がり教壇の方へと歩いていく。

 「えー、青野郷だ。趣味は筋トレ。他は特になし。一年間よろしく頼む」

 郷が簡単でつまらない自己紹介をして席に戻っていく。

 ふっ、つまらない男め。

 ニヤニヤして郷の方を見ていると、目が合い机を軽く蹴られる。

 「はい、ありがとうございます。次は赤井くん、よろしくお願いします」

 次に俺の名前が呼ばれる。

 さて、と……。

 「赤井恋次です! 将来の夢はお嫁さん。趣味は花嫁修業、特技はブーケトスです! どうぞよろしくお願いします!」

 キャハっと顔の前でピースをして可愛くキメた。

 これはクラス中歓喜の渦に包まれるだろうな。

 ポーズのまましばらく静止しているが、なんの言葉も聞こえずシーンとしていた。

 唯一聞こえるのは郷と聡の微かな笑い声だけだ。

 アイツらは後でボコす。

 「よ、よろしくおねがいしまーす……」

 ダダ滑りの空気にいたたまれなくなり、もう一度挨拶をして席に戻る。

 ヘタしたら不登校一歩手前まで追い詰められ(自業自得)て新学期初日からこのクラスでやっていけるか不安になった。

 「……個性的な挨拶でしたね。それじゃあ次の人お願いします」

 辛い……‼

 先生にも気を使われているこの状況が……‼

 しばらく放心していると、今度は聡の出番が来た。

 「黄井聡です。みなさんと同じクラスになれて嬉しいです。今年一年よろしくお願いします」

 ニッコリと笑っていい人アピールをする聡。

 アイツ卑怯だぞ!

 俺はこんなに己を犠牲にしたというのに……。

 顔だけはいい聡の挨拶に女子たちと一部の男子が色めきだっている。

 ふん、アイツの本性を知ってもそんなふうにいられるかな。

 ……いや、ちょっと待て。

 女子は分かるがどうして男が色めきだってる。

 中性的な顔立ちしてるがアイツは歴とした男だぞ。

 このクラスの奥深さに驚愕していると、また次の人が前に出る。

 「小金井翔こがねい かけるだ。このクラスにはふざけた人間がいるようだが2年生になった自覚を持ってほしいものだね。僕からは以上だ」

 俺の方をギロっと睨み席に戻っていく小金井。

 ……真面目君だねぇ。

 そこから自己紹介はトントンと進み、最後の一人まで終了した。

 「はい、みなさん全員自己紹介が終わりましたね。本日はHRを少々やって終わりの予定です。それでは少しだけ休憩時間を取った後にHRを始めます」

 数分後書類を持った先生が教室へ帰ってきた。

 「えー、みなさん揃っているようですね。それでは今から配る資料をご覧下さい」

 そう言って先生は資料を配り始めた。














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