第11話 冒険者たちを転移

「この二つの依頼でいいか? 依頼場所は反対になるが」


 ロックスたちが持ってきたのは二つの魔物の討伐依頼。

 一つ目は王都から西に馬車で三日ほど進んだ距離になるカルツ平原。

 二つ目は王都から東に馬車で四日ほど進んだ距離にあるガロールの森。

 どちらも届け物に依頼の時に、通り過ぎたことのある場所なので問題ない。一度で転移することができる。


「ええ、問題ありません」

「もし、送れないとかだったら違約金はアンタが払ってもらうよ?」

「大丈夫ですよ。ちゃんと送りますから」


 普通であれば、これだけ距離の離れたものを期日までにこなすのは不可能だ。

 そうなると違約金が発生してしまい、冒険者が支払うことになる。

 はじめて転移することになるヘレナたちが不安に思うのは当然だった。

 こんな無茶スケジュールの依頼を受ければ、ギルド職員が止めるだろうが職員たちはクーシャを通じて知っているからな。

 ロックスがちょうどクーシャのところに持って行っているので大丈夫だろう。

 ほら、クーシャが俺に視線をやって苦笑いしているのが見えた。また変なことを始めたとか思っているのだろうな。


「依頼を受けてきた」

「それでは、外に行きましょうか」


 ギルドの中で突然いなくなると驚かれるからな。今後のためにわざと見せるって手もあるけど、『雷鳴の剣』がしっかりと成績を残せば美味しいものだと気付いてくれるだろう。


「それでは、まずカルツ平原まで転移します。準備はいいですか?」


 ギルドの裏に回ると、俺は最終確認をする。


「いつでもいけるぞ!」


 リーダーであるロックスが頼もしく頷き、ヘレナやレイド、アルナもこくりと頷く。


「では、転移をします」


 各々の確認ができた所で俺は複数転移を発動。

 すると、一瞬にして視界が切り代わり、目の前が緑豊かな平原地帯へと切り替わった。


「うわっ! どこだいここ!?」

「一つ目の依頼場所であるカルツ平原ですよ」


 転移したことに驚いているヘレナに落ち着いた声で告げる。

 初めて転移を目の当たりにした人は、かなり驚きの反応をするので少し面白い。


「おお! クレトの言う通り、ここはまさしくカルツ平原だな!」

「自分で頼んだ手前ではありますが、本当に一瞬でやってこられるとは驚きです。馬車で向かっても三日はかかる距離ですよ。それをこんなに簡単に」

「……すごく楽ちん」


 カルツ平原だということがわかり、他のメンバーも喜んでいる様子だった。


「クレトって、本当に凄かったんだね! やるじゃないか!」

「あ、ありがとうございます!」


 興奮のあまりヘレナが背中をバシバシと叩いてくる。

 かなり力が強くて背中が痛い。女性とはいえ、前衛となると力が強いな。


「王都からの料金として銀貨二枚いただけますか?」

「え、ええ。払いましょう」


 どこか呆然としているレイドに声をかけると、素直に銀貨二枚を渡してくれた。

 転移で送るだけで銀貨二枚稼げるなんてボロい商売だ。安い宿であれば、これだけで一週間は泊まることができる。


「依頼を達成するのにかかる時間はどれくらいになりますか?」

「えっと、二時間ほどあれば達成できるかと」

「そうですか。では、この砂時計が落ちる頃にこの場所に迎えにきますね。そこからガロールの森に送ります」

「迎えにくるって、アンタはその間どうするんだい?」


 パーティーの同行しない以上、俺の行動が気になるのは当然だ。何せ、俺がいないと王都まで帰るのも一苦労だし、次の依頼場所にも向かえないからな。


「そうですね。俺は王都に戻って、適当なカフェで時間を潰そうかと」

「何だと!? それはずるいぞ!?」 

「アタシたちが汗水垂らして魔物と戦っている間に、呑気にお茶ってかい!」

「そういうことができる商売ですから」

「便利な魔法ですね」


 俺は転移でいつでも王都に戻ることができるしな。

 その間に依頼をこなすこともできるが、初めての送り迎えの仕事で遅刻したくはないからな。ゆっくりと休んでいようと思う。


「……私もクレトとお茶する」

「おお、アルナさんも一緒にきますか?」

「……行く」

「なにふざけたこと言ってんだい。アルナはアタシたちと一緒に討伐だよ。銀貨二枚とられてる分、ここいらにある素材も採取しないといけないんだから」


 なんてふざけた会話をしていると、アルナはヘレナによって引っ張られていった。

 あまり表情を見せないアルナが強い願望を見せていたので、本当にカフェに行きたかったんだろうな。


「それでは二時間後に頼むぞ!」

「はい! それではお気をつけて!」


 元気に歩いていくロックスたちを見送って、俺は王都に転移で戻った。



 ◆




 王都を散策し、適当なカフェに入って時間を潰していた俺は、ふと気が付くと砂時計が落ちそうになっていることに気付いた。


「……そろそろ迎えの時間かな」


 ロックスたちの依頼は採取も合わせて二時間もあれば、十分だと言っていた。

 もう、集合場所に陣取っているかもしれないな。

 少し早いが席を立って会計をする。そして、店の外に出て適当な場所で転移を発動。

 迎え場所であるカルツ平原に向かうと、いきなり刃を向けられた。


「……なんだ、クレトか」


 ヘレナはやってきたのが俺だとわかると、そう言ってつまなさそうにショートソードを収めた。

 彼女は落ち着いているけど、いきなり死の危険に晒された俺はそれどころじゃない。


「勘弁してくださいよヘレナさん。心臓が止まるかと思いました……」

「アタシの後ろに現れるクレトが悪い」


 むむ、確かにそうかもしれない。

 魔物の跋扈する地帯で急に気配が現われれば驚きもするか。

 次からは集合場所から少し離れた場所に転移することにしよう。


「ところで、皆さんは討伐の方は無事に終わりましたか?」

「ああ、問題なく終わったよ」


 自信をもって言い切るヘレナ。

 パーティーの様子を見ると、誰も傷や怪我を負っていないし、疲弊した様子は見せていない。

 さすがはBランク冒険者にもなると実力が違うんだろうな。


「では、次の依頼場所であるガロールの森に移動しますか」

「その前に一つ相談したいことがあるのですがいいですか?」


 依頼が達成できたことなので、予定通り次の依頼場所に向かおうとするとレイドが尋ねてきた。


「なんでしょう?」

「クレトさんにお金をお支払いして、荷物を預かってもらうことは可能でしょうか? そうすれば、僕たちはもっと素材を持ち帰ることはできます」


 おっ、それは賢い交渉だ。そうすれば、より多くの素材を持ち帰ることができるからな。

 この平原でそれなりの量の素材を手に入れたのか、レイドたちのバッグはかなり膨らんでいる。


 そうか。複数の依頼をこなすことになると、そこで手に入れる素材も多くなって荷物も増えるのか。だとしたら、このような荷物を預かるというシステムは冒険者にとっても便利だ。荷物量を気にすることなく身軽に動けて、より多くの物を採取できる。


「銅貨三枚で引き受けましょう」

「それでお願いします」


 交渉が成立したので、レイドから銅貨三枚を受け取る。


「同じ大きさの空のバッグもお貸ししましょうか?」

「とはいっても、どこにそんなものがあるんだい?」

「こちらに」


 疑問の言葉を投げかけるヘレナに、俺は亜空間から取り出したバッグを渡した。

 代わりにレイドの持っていたバッグを亜空間に放り込んだ。


「そして、こういう感じで荷物は預かります」

「非常識な」

「アンタの魔法はどうなっているんだい……」

「……商人が見たら喉から手で出るくらいに欲しがりそう」

「生活が安定すれば、そういう方向でやっていこうと思っています」


 この送り迎えの噂が広まれば、商人の耳にも入ることだろう。そうやって信用を得た上で、どこかの商人と組もうと思っている。


「じゃあ、それまでの間に俺たちは稼がせてもらうことにしよう!」

「はい、それではガロールの森にお送りしますね」


 そうやって俺は『雷鳴の剣』を次の依頼場所まで転移させた。

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