第19話 疑似おっぱい―その名は
放課後になり三階職員室近くの教室へと向かおうと鞄を手にした時、宮本さんに呼び止められた。
「椎名君、美術部行こぉ」
なんで僕が美術部に?と疑問に思ったが、そういえば美術部には入らないという話をしていなかったことに今更ながら気付いた。
「ごめん。やっぱり僕は美術部に入らないことにしたんだ」
「あっ、……そうなんだ」
悲しげな顔を浮かべ、俯いてしまう宮本さん。
どうした?なんで泣きそうな感じ出してるの。
「……それって私のせいだよね。ごめんね」
声が震えてるんですけど。教室で泣かれたらどうしたらいいかわからないんですけども。
しかも理由はまあその通りです。だけどそんなこと言えるわけがない。
とにかく否定しなければ。
「違うから。他にやりたいことが見つかっただけ。宮本さんのせいなんかじゃないから」
否定するとともに、『いいかな。触れても怒られないかな』と躊躇いつつ宮本さんに手を伸ばす。
おっぱいを揉むためじゃない。
彼女の二の腕に触れるためだ。
「ほらもう、顔を上げて」
二の腕に手を置き、そう慰めた。
その時、いつ知ったかは分からないがある知識が思い出された。
ご存知だろうか。
二の腕がおっぱいと同じ柔らかさだという話を。
恐る恐る宮本さんの二の腕に触れている手を優しく握る。
服の上からではあるものの、手の平に宮本さんの柔らかさを確かに感じた。
これが生の二の腕だったらどんなに柔らかいことか。
今が春で冬服なのが惜しい。
胸チラといい、早く夏よ来い!
なんて季節に文句をつけても仕方が無いので、今はこれで我慢。
とりあえず一昨日腕に押し当てられたおっぱいの感触を思い出して比べてみよう。
ふぅむ、確かに同じくらいだったような気がしないでもない。
モミモミともっと揉みしだきたいところだが、流石にそれをやったら怪訝に思われそうなので止めておこう。
「ほんとぉ?本当は美術部に入りたかったんじゃない?」
「ほんとほんと」
「やりたいことって何?」
KSPって組織に入って運動部女子を観察することです。ってこれも言えたもんじゃない。
「やっぱり私のせい…」
言い訳を考えるために黙り込んだせいで、上がった顔がまた沈んでしまった。
「違うから」と再度否定するために手を振る動作をしたせいで、二の腕から手を離さざるを得なくなったし踏んだり蹴ったりだ。
ああ勿体ない。もう一度二の腕を掴みに行くのも不自然なので、もう揉めなくなってしまった。
いや、今はそんなことよりも言い訳を思い浮かべねば。
考えろ僕。脳をフル回転させて、言い訳になるやりたいことを探すんだ。
ここ数日の出来事で何かないかと思い返し、そして閃いた。
「写真!写真が趣味って僕が自己紹介したの覚えてる?それ!」
「写真?」
「そう。宮本さんと体験入部して美術部も楽しそうだったけど、僕は今までに絵を描いた経験がないから不安があったんだ。入部してやっていけるかなって。そう考えたらもともと好きな写真を撮ることを頑張りたいって思えたんだ」
どうだ。この言い訳なら通用するだろう。我ながら会心の出来ではなかろうか。
「嘘じゃないよね」
「本当。自己紹介の時から言ってたことだよ。宮本さんのせいじゃないってば」
「そっかぁ。それなら無理に誘っちゃ駄目だよね。うん、そっかぁ」
目元に溜まっていた雫を手で拭い、ようやっと宮本さんが笑顔を浮かべた。
これで一安心。安堵の息が漏れるというもの。
そしてここぞとばかりに閃いていたもう一つの事柄を切りだす。
「写真、撮ってもいいかな」
「え?」
「宮本さんの写真。駄目?」
写真が趣味でそれを頑張ると告げたばかりの今ならば、自然に宮本さんの写真が撮れると踏んだ。
弁明と実利を兼ねた一石二鳥の閃きだったのである。
許可を得る前にスマホのカメラ機能を起動し、レンズを向ける。
慌てながらも髪に手櫛を通し、目線はレンズに、顔を作る宮本さん。
流石女子。カメラの前での行動が早い。
口では「止めてよぉ」とか言ってるが、ばっちり写れる体勢を整えているところが恐ろしくもある。
だが今は女子の生態に驚くよりも写真である。
「撮るよー」
「えぇー」
口では嫌がっているがこれは大丈夫だと判断し、準備が整っている宮本さんを画面に収めシャッターを切る。
撮った写真を確認すると、うん、上手く撮れていた。
可愛い子の写真ゲットだぜ!と心の中でガッツポーズを決めるていると、
「私変な顔になってない?見せてぇ」
とスマホごと手を取られた。
ほんとこの子はもう思わせぶりなことをする恐ろしい子。
あなた昨日僕のこと振りましたよね。
朝とか気まずい関係でしたよね。
それなのにこんなことをするなんてどういう神経してるんですか。
男心を弄ぶ罪で訴えますよ。
「うん。変にはなってないかな。でも急に写真撮らないでよぉ」
「ごめんって。可愛かったから」
「もうもうもう」
もうの度に揺らされる僕の腕。
幸せってこういうことを言うんだなぁと感慨に更ける。
だがそんな幸せ絶頂な僕の耳は「チッ」という舌打ちの音を拾った。
おっとすみません幸せ気分に浸って教室内だということを忘れていた。
いちゃついてごめんさい。リア充でごめんなさいね、教室内の方々。
「じゃ、じゃあ私は部活に行くねぇ。また明日。バイバイ」
宮本さんにも舌打ちの音が聞こえたのだろうか。
お別れを告げ、手を振りながら教室から出て行ってしまった。
僕はそんな後ろ姿に手を振り返す。
頭の中を巡るのは、様々な感触のこと。
二の腕の感触。一昨日のおっぱいの当たった感触。触れ合った手の感触。
そしてそこに姿写真。
ここから導き出される答えは、何をとは言わないが家に帰った
暫し記憶を心に焼き付けるためその場に留まっていた僕は、数分後にKSPとの用事があったことを思いだし、慌てて教室を出ることになったのだった。
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