第16話 お説教
変な組織に捕まり、自信満々にクラスメイトに告白して振られ、家に逃げ帰ったら、幼馴染に枕でボコボコに殴られた。
放課後にあったことを纏めるとそうなるわけだが、酷い厄日があったものだ。
そして最後の厄を持って来たやつはそもそも、
「お前なんの用で来た?」
という話である。
「いつものだよ」
端的な答えだが、それで分かってしまう。
「ああ、おじさんとおばさんのデート日か」
「そそっ。だからご飯食べに来た」
「相変わらず仲がいいこって」
「ねー」
静香の両親は月に一回は夫婦水入らずでデートをするのがお決まりになっていて、それが今日だったようだ。
そしてその度に家に飯を食いに来るというか、母さんが呼ぶのである。
幼い時に「静香と結婚する」なんて今では考えられないような妄言を吐いたことを未だに引き合いに出して、「静香ちゃんは家の娘になるんだもんね」なんて戯言を聞かされるのもしょっちゅうである。
その夢は静香のおっぱいが膨らまなかったことによって潰えたので諦めて欲しい。
「それにさ、純が今日放送で呼びだれてたじゃん。あれも気になったしさ。なんだったの?」
「大した用事じゃなかったから気にすんな」
「えー、なんか隠してない」
「なんでもないって」
別に隠す必要もないが、言う必要もないだろう。
説明が面倒くさい。
そんな会話をしていると、階下から母親の「ご飯出来たよー」という声が聞こえてきた。
「はーい。――純、行こ」
「ああ」
階段を下りて食卓に向かうと、テーブルの上には三人分の食事が並べられていた。
父は帰りが遅い日が多いので、僕と母と静香の分だ。
今日は白米とハンバーグ、サラダ、コーンスープという献立。
「今日も私が好きなのがいっぱいあるー。純ママ、ありがとう」
「当然じゃない。静香ちゃんのために腕によりをかけたから、いっぱい食べてね」
そんな会話をしつつ、ハイタッチまで交わしている。
僕は黙って椅子に座り、テレビを点けて適当にチャンネルを切り替えていく。
特に見たい番組も無かったので比較的面白そうなところでリモコンを置いた。
「いただきます」
三人が席に着いたところで手を合わせ、夕飯を食べ始める。
食べながらも会話を交わす母と静香を他所に、僕はテレビを見ながら食事を進めた。
全て平らげ、「ごちそうさまでした」の言葉と共に席を立ち、食器を流しに置いたら早々に部屋に戻る。
普段だったらリビングのソファに座って寛いだり、テレビを見るかゲームをするかしているが、今日はそんな気になれなかった。
流石に数時間で心に負ったダメージは抜けていない。
一人になりたかった。
そう思っても、そうさせてくれないのが静香である。
ご飯を食べたなら家に帰ればいいのに、また部屋に上り込んできた。
当然ノックは無かった。
ベッドに寝転がる僕を横目に、机の椅子に跨って、背もたれに顎を乗せた格好で質問を投げかけてくる。
「ねえねえ、なんでさっき叫んでたの」
呼び出しの次はそっちが気になったようだ。でも言えるわけがない。
好かれてると思って告白したら振られただなんて。
「ねえねえねえねえ、なんでー」
「うるさいな。関係ないだろ」
「女の子には優しくしなよ。そんなんだから彼女出来ないんだぞ」
「うるさい!!」
彼女がどうのとは今言われたくない言葉だったため、大きな声が出た。
それで何かを察したらしい。
「もしかして振られた?」
なんで分かるんだという言葉を呑み込み、否定も肯定もせず黙り込む。
今喋ったら多分声が震える。
「えっ、マジで!?高校入って四日目だよ。告るにしても早くない。一目惚れ?」
「な、何も言ってないだろ」
「いや態度で分かるから。幼馴染だし。ってか声震えてるじゃん。ウケる」
こっちは笑い事じゃないっていうのに。
「そんなに可愛い子だったの?なんで好きになったの?」
質問攻めが止まらない。
何も話したくないっていうのに、どうやらそれは分かってくれないようだ。
「恋愛話が聞きたいんだよぉ。ねえ教えて」
「やだ」
「純ママに言っちゃおうかなー」
なんて卑怯な。鬼かこいつは。
その脅迫に屈し、嫌々ながら掻い摘んで話すことになった。
同じクラスの女子に好意を持たれてると思った。告白したら成功すると思っていた。ただそれは勘違いだとある人に言われて、見返そうとした。そして振られた。
説明すると更に気分が重くなるようだった。
そんな話を聞いて静香は、「当たり前じゃん」と僕を笑った。
「いやないわー。一目惚れで勢いで告るならまだしもさ、その煽って来た人を見返したくて告ったわけでしょ。ないわー」
呆れたように言い放つ静香。
馬鹿にするような言い方に腹が立って言い返す。
「好きだと思ったから告白したんだよ。別にいいだろ」
「好きだと思ったって何?好きって言えてないじゃん。そんな想いがこもってない告白されてOKするわけないでしょ」
言われてよくよく思い出せばその通りかもしれない。
ここ数日で僕がおっぱいを揉みたいと思った子のなかで、好意を向けてくれたから告白したようなものだ。
まあその好意も勘違いだったわけだが。
「明日から会い辛いな」
「それは向こうもだからね。同じクラスなんでしょ」
「ああ、しかも逃げちゃったんだよな」
「はぁっ!?」
零した言葉に過剰な反応を静香が見せる。
「逃げたって何」
「いや、同じ部活に入ろうと思ってて、その部室から呼び出して告白したんだけどさ。戻るに戻れないじゃん。恥ずかしいし」
「うっわ最悪。相手の子が可哀想じゃん。絶対今頃必要もないのに『悪いことしたな』とか思ってるかもよ。っていうか絶対そう」
そうなんだろうか。
「その子の連絡先は?私が代わりに謝るよ」
「いや知らない」
嘘でしょって顔をして、重たい溜息が吐かれた。
「みーちゃんとはCROSSの交換してるのに、なんでその子とはしてないかな。今更言っても仕方ないけどさ。絶対明日朝一で謝ったほうがいいからね。これからも毎日顔あわせるんだし」
「そうだな。顔合わせ辛いもんな」
「純がってことじゃないからね。その子が、だからね」
「……分かってるって」
実は分かってなかった。だけどそれを言ったら今でも散々なのに説教が長引きそうなので誤魔化した。
「本当に分かってる?私も付いていこうか?」
「いらないから」
「本当に?」
「本当に」
「じゃあ謝ったら私に教えてね。じゃないと純ママに言うから」
伝家の宝刀ばりに再度の脅し文句。
静香の言う通りに謝って、そしてその結果報告をすると約束したことでやっと満足したのか、静かは部屋を出ていった。
一人になった部屋で考えるのは、明日なんて謝るかということ。
考え、悩み、想像し、やはり思うのは会い辛いという事。
朝一で呼び出すことを思えば緊張し、なかなか寝付けない夜を過ごすことになるのだった。
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