第13話 学校秘密警察
授業終わり、放課後になったので宮本さんと一緒に美術部に向かおうとした時だった。
『一年X組。椎名純さん。三階職員室までお越しください。繰り返します。一年X組。椎名純さん。三階職員室までお越しください』
自分を呼ぶ放送が流れた。
どうして呼ばれたのか見当がつかないので首を傾げる。
「なんだろ」
「なんだろぉね。三階ってことは普通科の先生たちがいる職員室だし」
僕たち特別進学科の先生が詰めているのは教室があるのと同じ五階職員室だ。
宮本さんも首を傾げて訝しがる。
ちなみにこの学校のクラスはアルファベットを振られている。
普通科はAから始まり、その年の入学者数によって変わる。
そして特別進学科はZから振られ、今年はVからZまでの五クラスとなっている。
教室の配置は二階から四階が普通科。
五階は全学年の特別進学科が入っている。
進学を目指すんだから、そこは二階とかにしてもらえると移動時間とか削れていいのではないかと思うが、伝統で五階と決まっているらしい。
毎日階段の上り下りで体力を使わされるのが地味にキツイ。今はいいが夏とかそれだけで一汗かきそうである。
エレベーターもあるにはあるが、重い荷物の運搬、怪我等の足を理由とした問題がある場合を除いて、普段利用は禁止となっている。
「誰が呼んでるかも言ってなかったよね」
そこも疑問だ。
これまでに聞いた呼び出し放送では、大体が誰が呼んでいるかも伝えていたと思う。
そうしないと、いざ職員室に行ってもどの先生の所に行けばいいのか分からないから当然のこと。
なのに今回はそれが無い。
「とりあえず行ってみたら」
行かないという選択肢は無かったが、どうにも腑に落ちなくて動かずにいたところ、里見が職員室に向かうよう促してきた。
普段は放課後すぐに部活に向かうのに、今日はいいのだろうか。
どうにもおかしな感じがするのは気のせいか。
「早く行かないとまた呼び出しの放送がされるんじゃないかな」
何度も名前を全校放送で流されるのは確かに気恥ずかしいものがある。
里見の言葉に従うように、僕は宮本さんと別れて三階に向かうことにした。
階段を下り、三階の廊下を歩く。
職員室と書かれたプレートが見えてきたところで、急に横の扉が開いた。
勢いよく開かれた扉の先は、遮光のカーテンが閉められているのか真っ暗だった。
そしてそこから手が伸びてくる。
いきなりのホラー展開に半ばパニック状態の僕は、何が何やら分からないまま、その手に掴まれ引き摺り込まれた。
奥へと運ばれ、椅子に座らされる。
座らされた感触からして、その椅子は教室で使われている椅子と同じもののように思う。
鉄枠に座面と背もたれが木板でできたあれだ。
立ち上がろうとするも未だ押さえつけられていて出来ないし、あっという間に後ろ手と足を椅子に縛り付けられた。
暗くて何も見えないが、僕を掴んでいた手の数から考えて、犯人は三人以上。
いったい誰が、何の目的でこんなことを。
カチリッ、カチリッ
と音がして、その音が鳴る度に明かりが灯る。
ロウソクの光がぼんやりと室内を照らし浮かび上がったのは、劇の合間に動き回る黒子の格好をした人物が五人。一人は悪の総帥のように三角形の被り物をして椅子に座っている者が一人。計六人のあからさまに怪しい集団だった。
黒子の五人は明かりを点け終えると、僕の全面を囲んだ。
「これより一年X組椎名純の審問を開始する」
「待て待て待て。なにこれ?」
なにもかもが突然すぎて、全然意味が分からない。
何を勝手に始めようとしてるんだ。説明を求める。
「静粛に。今から説明するから黙って聞きなさい。いくぞ」
「我らは校内の安全を守るため」「男性の行動を監視し」「不埒な犯罪を許さない」「違反者に罰を与える」「秘密自治組織」「「「「「
「……」
やべえ奴らだった。
「君には女性を脅かす存在だとの嫌疑がかけられている。心当たりはないかな」
なんのことだ?さっぱり分からないんだが。
「そんな罪になるようなことをした覚えは『しらばっくれるんじゃない!』な…」
囲んでいた一人が急に声を張り上げる。
「証拠は挙がってる。こいつは即断罪すべきだ」
「落ち着け。確かに証拠はあるが、すぐに断罪は早い。まずは注意勧告からだ」
「納得できん。こいつは幼女の胸を揉んだんだぞ」
あっ、それか。ということは里見もこれに関わっているんだな。
昼休みに議題に挙げると言っていたのはこれのことか。
「揉んだと言っても、事故でたまたまです。それに幼女じゃないし」
見た目は幼いが静香も高校生だ。幼女ではない。
「このっ!こいつ堂々と自白したぞ。こんな奴を野放しにする気か」
「だが被害者は訴えていない。怯えたり、拒絶することもなく普通に接していたとの情報だ」
「けど……だけどっ!」
「個人的な感情は止めなさい。私たちは公平公正な取り調べを行い、妥当な処分を下さねばならない。私情を持ち込むようなら、君をこそ断罪しなければならなくなる。それでもいいのか」
「それだけはっ、それだけは勘弁してください」
「ならば落ち着け。被疑者の前でみっともない。組織の一員であるならそれらしい態度を取れ」
「はっ!」
胸の前に腕を掲げた軍隊みたいなポーズをとったりして勝手に盛り上がっている彼ら。
ヒートアップしている人間を客観視していたら、なんだか落ち着いてきた。
一人が過剰に熱を帯びて僕の事を断罪したがっていて、逆にされそうになったら怯えていた。
集団リンチとかの暴行でも加えられるのだろうか。
だが僕がそうなることはない様子でもある。
「断罪ってなんですか」
「世にも恐ろしいことだよ」
「我々高校生にとってはね」
ゴクリッ
果たしてどんな罰なんだ。
「いずれ君も知るだろう」
今は教えてくれないのか。
まあいい。今は早くここから出して欲しい。
「とにかく事故で揉んだだけなんで、解放してもらっていいですか」
「いいわけないじゃないか」
優しい言葉遣いだが、はっきりとした拒否。
「君には注意勧告をすると言っただろう」
「じゃあそれを早く」
「君は女性の胸に深い関心を持っているようだね」
里見。あいつが
「君の幼馴染も教室で言っていたようだし、我らが同志も証言している」
静香もか。家に帰ったら余計なことを学校で吹聴しないよう教育してやろう。
「我々の学校の歴史は深い。歴代の先輩方には著名人もいる。そんな方々に迷惑をかけてはいけない。在校生だって変なレッテルを貼られて進学や就職に不利になったりしたら困るだろう。そこで組織されたのが我々だ」
あっ、これ長くなる奴だ。
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