生徒会庶務 春風明日香

「ねぇ、あ~ちゃん聞いてる?」

 さーちゃんこと関川紗綾にそう言われ、私は親友の言葉を右から左に受け流してしまっていたことに気が付きました。

「ごめん、ちょっとぼんやりしてた」

「最近ずーっとそんな感じだよね。これから知り合いが誰もいない土地に一人で住むことになるのにそんな状態で大丈夫?」

「大丈夫よ。多分」

 明才高等学校を卒業後、私は一週間もしないうちにこの生まれ育った町を出ていくことになっている。

 残された時間はあと僅か。その残された時間で私は……。

「少なくとも四年は海くんと離れ離れでしょ? って伝えたの?」

「だろーね。あ~ちゃんの事だからそんな事だろうと思った。もう時間ないよ」

「そんな事はわかっているけど、今更なんて伝えれば良いのか……」

 海とは生まれて間もない頃から姉弟もしくは兄妹のようにほとんどの時間を共に過ごしてきたが、海の私に対しての感情は今もまだよくわかってはいない。

「早くしないと、海くんよ。意外とファン多いみたいだし」

 さーちゃんのその言葉を聞いて私の頭に浮かんできたのは七海さんの顔でした。彼女が海に想いを伝えたという話は聞いてはいないけれど、卒業式までは残り2いつその時が来てもおかしくはありませんでした。

「そうだ! 海くんの大好きなコロッケを作ってプレゼントするのはどう? 私も作るのを手伝うから。大好きなものをプレゼントされたら海くんきっとイチコロだよ! そうと決まれば

「やらない。それに、さーちゃんが手伝ったら海がでイチコロになってしまうかもしれないでしょう」

「別の意味がどういう意味かは分からないけど、それならいつ告白するの? 今?」

 さーちゃんは……紗綾は親友としてとても真面目にそう問いかけてきました。

「今すぐは、勇気が出ない。でも、卒業式……卒業式までには

「約束。だからね」

 紗綾と私は小指を絡めて約束しました。針千本飲まないために。



 卒業式まで残り2日。

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