さいこうさいぜんのせんたく

「今日はこれくらいで良いかな」

 海の家に集まってまだ二時間半しか経っていませんでしたが、美沙は三人にそう提案してみました。

「美沙、何か気に障ることしてしまったか?」

「気が付かなかったわ。ごめんなさい」

「ミササ! ワタシたちを見捨てないで!」

 言い方が悪かったせいで美沙が指導を放棄したと勘違いしてしまった三人は慌てて美沙の逃げ場を塞いでそう言いました。

「もう、三人そろって勘違いしないで」

「勘違い?」

「そう、勘違い! 美沙が今更三人を見捨てる訳無いでしょ」

「それもそうね。美沙がそんな無責任なことをするはずがなかったわ」

「じゃあ、どうして!」

「だって、みんな美沙に秘密で勉強しているでしょ?」

 三人は美沙から視線を逸らして知らないフリをしていましたが、三人それぞれの努力は点数という形で目に見えて現れていました。

「海と明日香は今のままでも十位には届くと思うし、ユズリンも五十位以上は確実だと思う」

「それなら、もっと上の順位を目指せるように指導してくれないか?」

「私も海と同じ気持ちよ」

 海と明日香なら絶対にそう返してくると思っていました。

「今日はこれで終わり。海と明日香のために」

「どうして、私たちの限界を美沙が決めるの?」

「明日香、美沙の言う通りにしよう。美沙はこれが俺たちにとって最高最善だと思ってこの選択してくれたんだろ?」

 海は怖いくらいに人の気持ちを正確に理解してくれると感じながら美沙は大きく頷きました。

「ユズリンにはもう少しだけ頑張ってもらおうかな」

「何で!」

「目指せ、生徒会役員全員ベストテン入りだから」

「聞いてないよ!」




海  「さっきの話だけど」

美沙 「さっきの話?」

海  「生徒会役員全員ベストテン入り」

海  「って話」

美沙 「うん、それがどうしたの?」

海  「あれって、七海と笑舞も入るのかなって」

美沙 「入るよ。二人も生徒会役員でしょ?」

海  「そうだけど……」

海  「美沙が勉強教えている訳じゃないだろ?」

美沙 「それなら絶対大丈夫」

美沙 「美沙より優秀な家庭教師がいるから」

海  「おい、それって!?」

美沙 「羨ましい?」

海  「当たり前だろ!」

美沙 「安心して」

美沙 「受験勉強は見てくれるようにお願いしているから」

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