ふたりだけのじかんのまえに

「ごめん。遅れた」

 ワタシの前に一人の男子生徒が息を切らせながらやってきました。

「お忙しいのに時間を割いていただきありがとうございます。どうしてもワタシの気持ちを直接お伝えしたかったものですから」

「気持ち……」

 戸惑う男子生徒にワタシは一通の封筒を手渡しました。

「それがワタシの気持ちです」

「……辞職願か」

 男子生徒もとい会長は大きな溜息を吐いてワタシのことを見つめました。

「笑舞にこんな道を選択させるくらいなら、昨日の記事はやっぱり止めるべきだったな」

「記事が出ようが出まいが、ワタシはこの選択をしたと思います」

「これから伝えに行く選択が生徒会役員として不適切だからか?」

「はい」

 覚悟が決まっていたワタシは力強くそう返しました。

「そうか、じゃあ……」

 辞職願を見つめた会長は小さく深呼吸をしました。

「これを受理する……」

 生徒会役員としてのワタシは今を持って終わってしまいました。

「とでも言うと思ったか? 困るんだよ。支持率98%の役員に辞められちゃ」

「会長? 何の冗談ですか?」

 ワタシの今までの支持率は最高でも72%止まりでした。昨日の記事が出て、ワタシの支持率はどん底まで落ちているはずでした。

「笑舞は自分のことを過小評価しすぎだ。これを見てみろ。龍鵞峯から預かった出来立てほやほや最新の支持率だ」

 会長が渡してくれた紙には『小柳橋笑舞 支持率』というタイトルと共に68、83、98と日ごとに大きくなっている数字が記されていました。

「この学校は笑舞の恋路を心から応援しているみたいだが、笑舞はその信頼を裏切って生徒会を辞めたりしないよな?」

「今日の会長は、姉さまみたいで嫌いです」

 ワタシはそう告げて会長に渡した辞職願を奪い取り、その場で破りました。

「この話は無かったことにして下さい。ワタシは支持してくれる生徒の信頼は絶対に裏切りませんので」

「なら、笑舞を一番信頼してくれる彼の所に行ってやれ。待たせているのだろう?」

「はい。生徒会活動には少々遅れてしまうことだけお許しください」

「みんなで良い報告を待っているよ」

 会長の言葉を背に受けて、ワタシは颯さんに本心を……ワタシも颯さんのことが好きだという気持ちを伝えに行きました。



生徒会議事録

 笑舞ちゃんおめでとう! 柚鈴

 良い報告が聞けて嬉しいよ。 芹沢

 青春ですね。羨ましく思います。 小雨

 ありがとうございます。と、お答えすべきなのでしょうか? とりあえず、ありがとうございます。 笑舞

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