おれのきもち

「ば~しちゃん」

 教室で颯さんと別れ、生徒会室へ向かおうと廊下へ出ると同じクラスの志葉あきらさんがワタシを引き留めました。

「志葉さん、何か用事かしら?」

「用事が無いとお話しちゃダメだった?」

「ダメではないけれど……」

 ないけれど、今の志葉さんはクラスメイトではなく報道部特有のジャーナリストの目になっていたので出来るだけ話したくはないという気持ちがありました。

「ばしちゃん、明才祭は楽しめた?」

「えぇ、全てをとは言えないけれど満足は出来たわ」

「それって、しきくんと一緒に回れたから?」

「……」

 しきくんというのが颯さんの事を指す名前であることを知っていたワタシは気軽にその質問に答えることが出来ませんでした。

「何で答えないの?」

「その通りだからよ。志葉さんはワタシと颯さんが一緒に居る事が多い事実を記事にしたい。違う?」

「当たりですよ。異性交遊を反対していた風和先輩の妹が率先して異性交遊を行っている。良い記事になる予感じゃないですか!」

「はぁ」

 ワタシが吐いたその溜息には今更そのような記事を出そうとしている志葉さんに対する馬鹿馬鹿しさとそのような記事が書かれそうになるほど颯さんとの距離を縮めてしまっていた自分に対する呆れの二つの意味が込められていました。

「盗み聞きをするつもりは無かったけど、志葉さん面白そうな記事書くつもりみたいだね」

「誰かと思えば、しきくんじゃないですか。お二方からお話を聞けるなんて私は運が良いですね」

「悪いけど、オレも笑舞さんもその記事に関しては答えないよ」

 颯さんはワタシと志葉さんの間に割って入ると爽やかに、それでいながら強い口調でそう言いました。

「それは困りましたね。これから毎日のようにお話を聞かなくてはならなくなってしまいます」

「うん、本当に困る。なら、一つだけ……」

 ワタシを見つめた颯さんは無言で、

「今の内に行って」

 と訴えかけてきました。

「颯さん……ありがとうございます」

 そう言って生徒会室に向かったワタシですが、歩きながら颯さんの言葉に耳を傾けていました。

「オレは笑舞の事が大好きだ! 志葉さん、この言葉を聞きたかったんだろ?」

 その言葉にワタシは足を止めそうになってしまいましたが、ここで足を止めてしまっては颯さんの勇気が無駄になってしまうような気がしたので歩き続けました。



生徒会議事録

 何かすごい記事が出ているようだけれど。 明日香

 俺の方から龍鵞峯に削除依頼を出そうか? 芹沢

 いえ、大丈夫です。そのままで。 笑舞

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