ちょっとさぼって
「あれ?」
いつもの様に海と明日香の三人で登校をしていると、少し気になる行動をしている生徒が視界に入りました。
「二人ともごめん、先に行ってもらえるかな?」
「忘れ物か? 時間に余裕があるから待っているよ」
「美沙は子供では無いのだから待っている必要はないでしょう。美沙、先に行っているわ」
「うん、気をつけてね」
美沙の思いを察してくれたらしい明日香は海の手を強く引いて学校へ向かっていきました。
「おはよう」
先ほど見かけた気になる行動をしていた男子生徒に声を掛けると、その子は飛び跳ねるように驚きました。
「急に声を掛けてごめんね。ちょっとお話しても良いかな?」
「ご、ごめんなさい。ちゃんと登校しますから親には言わないで下さい」
彼はそう言うと美沙と目を合わせることなく頭を深々と下げました。
「新入生の瑠堂恵吾くんだよね?」
「どうして、僕の名前を?」
「う~ん……生徒会だから?」
たまたま新入生二百十五人の顔と名前を暗記していただけなので深い理由はありませんが、それらしく言ってみました。
「もし良かったら、美沙……私と一緒にお茶しない? 美味しい紅茶が飲めるところを知っているから」
「僕は構いませんけど、先輩は大丈夫なんですか?」
「大丈夫。生徒会特権を使うから」
美沙は恵吾くんに微笑みながら言いましたが、もちろんそんな特権があるはずないので、明日香に『間に合わないから言い訳お願い!』とメッセージを送って美味しい紅茶が飲める場所へ恵吾くんを案内しました。
「ここって、生徒会室って書いてありますけど」
「秘密だけど、ここで美味しい紅茶が飲めるんだよ」
紅茶の準備が出来るまでの間、恵吾くんには美沙の席に座ってもらいました。
「お待たせ、これは私の作ったクッキーなんだけど良ければ食べてみて」
「あ、ありがとうございます」
紅茶と共に戸棚に残っていた美沙手作りのクッキーを出すと、恵吾くんは紅茶をチビチビと飲んではクッキーを小さくかじっていました。
「あ、あの」
紅茶の半分を飲み終えた頃、恵吾くんはようやく声を出しました。
「先輩はどうして僕なんかに声を掛けてくれたんですか?」
「恵吾くんが学校に……というよりは教室に行くのが嫌そうに見えたからかな」
「だったらどうして、生徒会室へ? 教室に連れて行くことも出来たはずですよね?」
「確かに、教室に連れて行けば解決するかもしれないけど、それだと恵吾くんが教室に行きたくない気持ちは変わらないよね? 生徒会室を選んだのは教室じゃ無ければどこでも良いと思ったから」
「教室じゃ無ければどこでも……」
「でも、学校である必要はあるよ。『教室に行きたくない』という気持ちが『学校に行きたくない』という気持ちに変わってしまわないようにするために」
美沙の思っている言葉が十分に言葉として表現することが出来ずにもどかしい思いを感じていましたが、恵吾くんは美沙の瞳を真っ直ぐ見つめて聞いていたのでもしかしたらほんの少しは思いが届いているかもしれないと感じました。
「先輩も、もしかして」
「それは……また機会がある時にでも」
美沙はいつも通りに微笑んだつもりでしたが、恵吾くんの瞳に映った美沙は上手く笑えていませんでした。
生徒会議事録
言い訳お願いしておいてだけど……『寝坊して遅れる』は違うでしょ。 美沙
私が嘘を吐くのが得意では無いのを知っているでしょう? 明日香
ちゃんと生徒会の業務で遅れると訂正したから許してやってくれ。 芹沢
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