すとらいかーゆずり

 五月にしては暑すぎるくらいの日差しが照りつけるこの日、ワタシたちはサッカー場のスタンド席に座って女子サッカー部と男子サッカー部の練習試合を観戦していました。

「0対0の同点。勝負は後半戦からと言った感じですね」

「柚鈴の出る後半戦で勝負が決まるだろうな」

「柚鈴先輩は後半からなんですね」

 ワタシたちがそんな話をしている間に女子サッカー部のユニフォームを着た柚鈴先輩がフィールドに現れました。

「相変わらずすごい歓声ね」

「みんなユズリンを観に来ていると言っても過言ではないからね」

 後半戦開始のホイッスルが鳴ったと同時に女子サッカー部員でフォワードの十階建亜紀じゅかいだてあき先輩が柚鈴先輩にパスを出しました。

 すると、柚鈴先輩は驚くべき行動に出ました。

「海先輩、柚鈴先輩が自分のチームのゴールに向かっています!」

「まさか、柚鈴先輩ルールを……」

「二人とも柚鈴のサッカーを観るのは初めてか。まぁ、観てな」

 何故か、ワタシとナナ以外驚く素振りを見せていないので黙って見ていると柚鈴先輩は自軍のゴールへ向かって進んで行くとキーパーの七不思議御門なふしぎみかど先輩に向けてボールを軽く蹴りました。

「3!」

 七不思議先輩がボールをキャッチしたことを確認した柚鈴先輩は大声でそう叫ぶと自軍から敵軍へ向かって全力で走りだしました。

「来るぞ」

 柚鈴先輩が叫んでからピッタリ三秒後。七不思議先輩は手に持っていたボールを地面へ落とし、ボールが地面に着く前に敵軍へ向けて大きな弧を描くように蹴りました。

「嘘……」

 ボールが落下すると思われる地点には柚鈴先輩が最初から分かっていたかのような正確さで走って来ていました。

 スタンド席に居るワタシからでもわかるほどはっきりと微笑んだ柚鈴先輩は七不思議先輩がキャッチして以降一度も地面に接していないサッカーボールを蹴って男子サッカー部が守るゴールネットを大きく揺らしました。

「驚いただろ?」

「はい」

「もはや、驚くというレベルを超えています」

 目の前で起きた事実を事実としてとらえることが出来ませんでしたが、そんなワタシのことなど関係なしに柚鈴先輩は同様のシュートをあと四回行い、試合は5対0で女子サッカー部の圧勝で終わりました。



生徒会議事録

 ユズリンお疲れ~ 美沙

 お疲れ様。 明日香

 柚鈴先輩、あのシュートの成功率の高さは何が理由なのでしょうか? 笑舞

 計算だよ! 前半戦に敵と味方のコンディションさえ確認できればワタシがそれに合わせて走る速度を計算して、キーパーの御門ちゃんに伝えた時間に好きな所に蹴ってもらうだけ! 簡単でしょ! 柚鈴

 簡単ではないだろ。 芹沢

 ないですね。 七海

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