ふたりだけのゆうぐれ

「最近、お弁当の量少なくない?」

 二人きりで駅に向かって歩いていると、颯さんがそんなことを呟きました。

「すみません。明日からはもう少しおかずを増やしますね」

「いや、違っ、ごめん。勘違いさせた。今のは弁当に対しての文句じゃなくて、笑舞さんが食べる分のお弁当の量の話」

「ワタシのですか?」

 わからないフリをしてみたワタシですが、身体測定以降ワタシのお弁当の量を二割ほど減らした事実が気付かれていたことに驚きました。

「いや、気のせいなら良いけど……気のせいじゃないよな?」

 沈黙は答えを述べていることと同じであることはわかっていましたが、ワタシは沈黙してしまいました。

「気付いたのは昨日だけど、多分身体測定の後からだよな?」

「颯さんはよく見ていますね」

「ごめん、流石に気持ち悪いよな」

「颯さんなら構いません」

 他の人にそんなことを言われたら不快な気分になったかもしれませんが、今のワタシは嬉しい気持ちでいっぱいでした。

「颯さんの言う通り、ワタシはここ数日食事の量を減らしています」

「どうして?」

 颯さんはきっと理由に気付いているとは思いますが、口には出さないでくれました。

「少し……正確には1.8キログラムほど体重が増えてしまいまして」

 正確に伝える必要など無かったはずなのに、颯さんには包み隠さず伝えてしまいました。

「ちょっと失礼」

 そう呟いた颯さんは突然ワタシの前に立つとワタシの胴回りを両腕で包み込み、ワタシの身体を抱き上げました。

「うっわぁ。軽すぎ。笑舞さん食事量減らさない方が良いよ……あっ、ご、ごめん!」

 ワタシをゆっくりと地面へ下ろしてくれた颯さんは顔を真っ赤にしながらおよそ二メートルの距離を取りました。

「本当にごめん。でも、食事量減らして倒れた方が大変だから……」

 視線を逸らしながら颯さんはワタシにそう告げてくれました。

「は、颯さんがそう言ってくれるのなら」

 龍鵞峯先輩が気休めで言ってくれた言葉では揺らがなかったワタシの心は颯さんの言葉で簡単に揺らいでしまいました。

「は、早くしないと電車間に合わないな」

「きょ、今日は一本遅い電車に乗りませんか?」

「そ、そうだな」

 ワタシたちは夕日に照らされ、顔を真っ赤に染め上げながら駅へとゆっくり歩いていきました。




千景 「私の創作レシピだけど、良ければ」

千景が10枚の画像を送信しました。

笑舞 「ありがとうございます」

笑舞 「カロリー計算まで……流石です」

笑舞 「でも、どうして?」

千景 「依頼を」

千景 「わたしの気まぐれ!」

笑舞 「姉さまからの依頼ですか」

笑舞 「ありがとうとお伝えください」

笑舞 「今まさに見ているかもしれませんが」

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