こいのぼり
「会長、何かこちらに近づいてきていませんか?」
「あれって、鯉のぼり?」
買い出しを終えて向かい風を受けながら学校へ向かっていると、布製の筒……会長の想像通りなら鯉のぼりがワタシたちというより、ワタシ目掛けて飛んできていました。
「笑舞、伏せろ」
会長はそう言いましたが、ワタシは咄嗟に伏せることは出来ませんでした。
「だ、大丈夫か?」
「会長には、大丈夫なように見えますか?」
気が付くとワタシは黒い鯉のぼりに巻きつかれて歩道の上に倒れ込んでしまっていました。
「驚くほど綺麗に巻きつかれたな。すぐに開放してやるかな。立てるか?」
「身動きが取れないです」
「だよな。抱きかかえるが少し我慢してくれ」
「お手数おかけします」
昨日に続いて今日も男性に抱かれたワタシですが、昨日の方が嬉しかったと心の奥底で感じました。
「笑舞、軽すぎじゃないか? ちゃんと飯食えよ。って、これはセクハラだよな」
「構いません。会長とは気心知れた仲なので」
そんな会話をしている間に会長はワタシの身体から鯉のぼりを引き剥がしてくれました。
「あぁ、やっぱり」
「どうかしましたか?」
「柏陽保育園……今は確か、柏陽認定こども園だったか? そこの鯉のぼりだな」
会長はそう言って鯉のぼりの尾に記されていた文字を見せてくれました。
「俺と明日香が昔通っていた保育園だ。昔から強風のたびに鯉のぼりが飛ばされていたんだよ。もしかしてと思ったら案の上だった」
「そうですか」
「俺はこれを返しに行ってくるから笑舞は先に学校戻っていても良いぞ」
「いえ、急ぎの用がある訳ではないのでワタシもお供させていただきます」
「そうか? 悪いな」
ワタシは会長と共に向かい風を受けながら会長と明日香先輩が通っていたという柏陽認定こども園に鯉のぼりを返しに行きました。
海 「舞田先生覚えているか?」
明日香 「舞田先生?」
明日香 「保育園の先生だっけ?」
海 「たまたま保育園に行く用事があって」
海 「そうしたら舞田先生が園長になっていた」
明日香 「保育園に行く用事って何?」
海 「迷い鯉のぼりの返却」
明日香 「未だに飛ばされていたのね」
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