続ぶかつどうしんせつとどけ

「ごめんください」

 清らかな笑顔を言葉に添えて、およそひと月ぶりに生徒会室を訪れた関川先輩の手には報道部から流れて来た情報の通り部活動新設届が握られていました。

「関川さん、手に持っているのはもしかしなくても部活動新設届?」

「今回はちゃんと私のやってみたい部活を考えて来たから承認宜しく!」

「紗綾ちゃん、ちなみにだけど部員は揃っているの?」

「もちろんだよ。でも聞いてよ、明日香に部員になってもらえないか頼んだら『えっ? 部活? 紗綾が? それマ? いや、怖いし。やめとく』だって! ひどくない?」

 ひどいかどうかは置いておくとして、生徒会の役員全員が気になったのは明日香先輩の声真似のクオリティーでした。そのクオリティーは明日香先輩本人が関川先輩の後ろから声を出しているのかと思ってしまうほどのレベルでした。

「関川さんと明日香と仲が良いのは驚いたが、とりあえず部活動新設届を見せてもらおうか」

「はい、よろしくお願いします」

 関川先輩から部活動新設届を受け取った会長はすぐさま眉間にしわを寄せました。

「前々から思っていたけど、海くんって結構顔に出るタイプだよね」

「いや、この紙を受け取ったら誰でもこんな顔になると思うぞ」

「海先輩、ナナにも見せてもらっても良いですか?」

 ナナが受け取った部活動新設届を横から覗いてみると、会長の言っていた通りワタシもナナも眉間にしわを寄せてしまうような内容が書かれていました。

「関川先輩、ワタシが勉強不足なだけなのかもしれません。でも質問させていただきます。部活動承認の絶対条件である五名以上の部員は確保できていますが、関川先輩が提出された部活動新設届に書かれている『帰宅部』という部活は、ワタシの思い浮かべている帰宅部とは別のものでしょうか?」

「小柳橋さんの思い浮かべている帰宅部で間違いないよ」

 そう返され、謙遜しても賢い部類に入るはずのワタシの頭は混乱してしまいました。

「帰宅部は既に存在しますが」

「でも、部活動としては申請されていないよねっ?」

 関川先輩は大きく首を横に傾けてこれ以上ないほどの満面の笑みでそう言いました。

「でも、部活動としては申請されていないよねっ?」

 関川先輩は大きく首を横に傾けてこれ以上ないほどの満面の笑みでそう言いました。

 誤植ではなく、関川先輩は全く同じ動き、全く同じトーンで再度そう言いました。

「はい。部活動に入っていない生徒の事を便宜上は帰宅部と称してはおりますが、関川先輩がおっしゃった通り帰宅部は部活動として申請されておりません」

 ワタシが圧強めの関川先輩にそう返答をすると、助け舟を出す暇さえ与えられなかった先輩方は申し訳なさそうにワタシを見つめていました。

「ところで紗綾ちゃん!」

「どうしたの? 柚鈴ちゃん」

「会計として言わせてもらうと、ワタシの知っている帰宅部と同じ活動内容なら部活動だとしても活動費を出すことは出来ないよ!」

 前回達成することが出来なかった部活動承認の絶対条件をクリアしたことで部活動が承認されたものだと思い込んでしまっている関川先輩に対し、最近生徒会室で居眠り姿をよく目にすることが多くなった柚鈴先輩は突き刺すようにそう言いました。

「柚鈴の言う通り、従来の帰宅部と同じという活動内容なら申し訳ないが活動費は捻出できないな」

「うっそ! マジのすけ? それは困る」

「紗綾ちゃん的にはどんな部活がやりたいって構想は無いの?」

「構想? 無いね!」

 きっぱりとそう告げる関川先輩が何故かツボにはまったらしい柚鈴先輩以外は苦笑いを返しました。

「関川先輩、どんなことをやりたいか構想を練ってみたら先輩たちも首を縦に振るかもしれませんよ」

「そっかぁ! 初島さんありがとぉ!」

 関川先輩はそう言うと、関川先輩にとっては良いアドバイスをしたナナを隅から隅までくまなく名で繰り回し突風のように生徒会室から去っていきました。



生徒会議事録

 次、か。 芹沢

 あ! ごめんなさい! ナナ勢いで言わなきゃいいこと言ってしまいました。 七海

 気にしなくて良いよ。多分、言わなくてもまた来るから。 美沙

 ワタシは今回も承認派だったけどね! 柚鈴

 次回はまた一ヶ月後くらいでしょうか? 笑舞

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