さぁ、やってみよう!
昨日の生徒会で話題に上がった『青汁の味について』の疑問に関して『現在の青汁はとても美味しく、飲みやすい(生徒会役員の個人的感想)』と早々に決着がつき、青汁片手に作業を行っていると、報道部からの連絡を受けて席を外していた会長が手土産を持って生徒会室へ戻って来ました。
「お帰りなさい。何それ? CD?」
「いや、DVDらしい。とりあえず見て欲しいって」
そう言うと、会長は生徒会の活動時間中に使う機会などないと思われていた少し古いタイプの薄型テレビの電源を付けて、備え付けのDVDプレイヤー(ブルーレイディスク非対応機種)にDVDディスクを入れました。
「作業の邪魔になるとは思うが許してくれ」
申し訳なさそうに言った会長ですが、職員室で行うべき作業をわざわざ生徒会室に来て行っている小雨先生以外は退屈を持て余していたのでその心配は杞憂でした。
「それじゃあ、再生っと」
『紗綾のさぁ、やってみよう!』
「ストォォォォップ!」
「んっ! 紗綾のさぁ、やってみよう! クフゥッ、フフッ」
会長が大声を張り上げて一時停止ボタンを押したのとほぼ同時にワタシはお腹を抱えて机に突っ伏しました。
「海先輩、ナナは凄く嫌な予感が」
「奇遇だな。俺もだ」
「それより笑舞ちゃん大丈夫!」
「ご、ごしっ、フフゥッ」
「これ以上は笑舞ちゃんには危険じゃない?」
「ご心配をおかけしました。もう大丈夫です」
何度も思い出してしまって笑いが込み上げてきそうでしたが、ワタシは先日もやったように頭を混乱させることで落ち着きを取り戻しました。
「続き、観るか?」
何が起こるかわからないドキドキよりも、何が起こるかわからないワクワクの方が勝ってしまったらしい美沙先輩と柚鈴先輩は大きく頷いていました。
「笑舞と七海は嫌なら観なくても良いからな」
会長はそう忠告したうえでゆっくりと再生ボタンを押しました。
『この番組は、バラエティ番組の制作を企画した報道部制作の試験動画です』
恐らく龍鵞峯先輩と思われる声と共に画面には今の言葉と全く同じテロップが映し出されていました。
『さて、始まりました。『紗綾のさぁ、やってみよう!』この番組は私、関川紗綾が出されたお題に即興でチャレンジするとてもデンジャーな番組です』
「危険な自覚はあるのか」
『本日のお題は……料理! 得意ではありませんが。さぁ、やってみましょう!』
「このフレーズ流行りそうだね!」
「ユズリンったら適当な事を」
『では、今回は卵焼きを作ってみようと思います』
「関川先輩にはハードルが高いのでは?」
先輩方がテレビに向かってツッコミを入れているのでワタシもうっかりテレビに向かってそう呟いてしまっていました。
『まずは、卵を……』
卵を割ろうとしている関川先輩でしたが、器の淵で卵の殻にヒビを入れた時点で殻のほとんどが崩壊していました。
『では、割った卵をザルに入れて殻を取り除きます』
関川先輩にとってはいつもの事だったらしく、関川先輩は当たり前の顔をしてザルで卵の殻を取り除いていました。
『では、焼きます』
報道部が編集をミスしたのかと思うほど大胆に工程を無視して関川先輩は焼きの作業に入りました。
『出来上がったものがこちらです!』
「ノーカットだよな?」
「カットしたようには見えなかったですけど」
『さぁ、召し上がれ』
画面に映ったそれは一瞬で焼き上げたにしては黒すぎて、元が卵であったとは思えませんでした。
「召し上がりたくはないだろ」
テレビ画面に映っている卵焼きになる予定だった黒い固形物を見て会長がそう呟くと、『この後スタッフが美味しく頂きました』
というテロップが紫色の禍々しいフォントのテロップが出ました。
『ここまでノーカットでお送りしてきました『紗綾のさぁ、やってみよう』そろそろお別れのお時間です。次回もさぁ、やってみよう!』
「終わったな」
「終わったね」
「面白かったね!」
「柚鈴先輩正気ですか?」
ナナが柚鈴先輩に暴言を吐いた事に驚きを隠せませんでしたが、柚鈴先輩以外はナナと同じ気持ちでした。
生徒会議事録
報道部にはなんて報告しようか。 芹沢
紗綾ちゃんの名誉の為にもあの映像は表に出さないように言うべきじゃない? 美沙
それが一番だと思います。 笑舞
面白かったのに! 柚鈴
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