ひとみしり

「お疲れ様です」

 いつも通りの挨拶をしていつも通り生徒会室に入って二歩目で躓いてしまったワタシは生徒会室が普段と異なる雰囲気であることに気が付きました。

「ナナだけですか」

「笑舞、お疲れ様。海先輩は職員室に用事があるって。美紗先輩と柚鈴先輩は買い出しに行ってから来るって」

「という事はしばらくの間はワタシたちだけという事ですか。ナナ、お茶で良ければ淹れますが」

「本当! じゃあ、お願いしようかな」

「私もお願いしても良い?」

 聞きなれない聞き覚えのある声に振り向いてみると、春風明日香先輩が生徒会室の扉の前に立っていました。

「海先輩たちなら今日は遅いですよ」

「それは美沙から聞いているから知っているよ。だから来たって言うのもあるし」

「取りあえず中へどうぞ」

 ワタシがお茶を淹れている間、迷うことなく会長の席に座った明日香先輩はナナと特に会話をする事も無くただシンとした空気だけが生徒会室に充満していました。

「粗茶ですが」

「ありがとう」

「ところで、会長たちがいないのを知った上で生徒会室に来られたという事は、ワタシたちに用事があると解釈して良いのでしょうか?」

「まぁ、少し気になった事もあるから」

 明日香先輩はワタシたちを見ているようでワタシたちとは少しずれた場所を見ながらそう言いました。

「気になったことですか?」

「風和先輩のこと。この間の役員会議でいつもより真剣だったから」

「ワタシもあのような姉さまは初めて見ました。詳しくは話してくれませんが明才の為に真剣に考えた結果なのだと思います」

「それだけなら良いけど」

「ご心配して頂きありがとうございます」

 こんなに心配してくれる友人がいる姉さまをワタシはとても羨ましく感じました。ワタシとナナもいつかこのような関係になれば良いとそんな風に感じたりもしました。

「明日香先輩、美紗先輩たちもうすぐ帰ってくるみたいですよ」

「あぁ、それなら私は帰ろうかな」

「会長もそろそろ来ると思いますが」

「いいや、用事も思い出したから。お茶ご馳走様」

 明日香先輩はそう言うと、急いで生徒会室から出て行ってしまいました。会長たちが生徒会室にやって来たのはそれから五分ほど後でした。



生徒会議事録

 会長たちが来る前に明日香先輩がいらしてました。 笑舞

 すぐ帰っちゃいましたけど。 七海

 それは多分、笑舞ちゃん、ナナちゃんとお話して見たかったからだと思うな。 美沙

 人見知りだし、素直じゃないけど仲良くしてあげてくれ。 芹沢

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