れじぶくろぜろでー

「この中でエコバック持ち歩いている人は?」

 各役員がそれぞれ前任の役員から引き継いだ業務を淡々とこなしていると、生徒会所有のノートパソコンを使って調べ物をしていたらしい会長が不意にそのようなことを呟きました。

「いきなりどうしたの?」

「検索ページに『今日はレジ袋ゼロデー』って書いてあったから気になって」

「なるほどね。美沙は確かカバンの中に」

 美沙先輩は会長の質問の理由に納得をすると、自分のカバンの中から手のひらサイズに折り畳まれ、専用の袋に仕舞われた小さな黒猫のシルエットが散りばめられた灰色のエコバックを取り出して私たちに見せてくれました。

「わぁ、美沙先輩のエコバック猫ちゃんがいて可愛いですね」

「そうでしょ、今年の誕生日に明日香に貰ったの」

「明日香は昔からプレゼントのセンスが良いよな」

「つ、次はナナのエコバックを見てもらっても良いですか?」

 十数分前から作業に疲れている素振りを見せていたナナは意気揚々とそう言い、誰も返答する前にカバンから黄緑色に白の水玉がデザインされたシンプルな柄のエコバックを取り出しました。

「ナナのエコバックはシンプルですが、とてもナナらしくて可愛らしいデザインですね」

「そうかなぁ~? ナナは自分で買ったやつだけど」

「笑舞の言う通り七海に似合った可愛らしいデザインだな」

「にへぇ~ 本当ですか? ありがとうございます」

 ナナは会長に褒められるとだらしない笑顔を見せながらとても喜んでいました。

「笑舞はエコバックを普通に持ち歩いて良そうだよな」

「会長の言う通り持ち歩いてはいますが、ワタシのエコバックは機能性重視なので美沙先輩やナナのような可愛らしいデザインではありませんよ」

 そんな前置きをしつつ、ワタシはカバンの中から深緑色一色のエコバックを取り出して机の上に置きました。

「確か、笑舞ちゃん学校の帰りにお家のお買い物をしてから帰るって言っていたよね? やっぱりそれくらい大きい方が便利?」

「皆さんがコメントに困るほど質素なエコバックですが、サイドにあるチャックを降ろせば収容量が増えるので使い勝手は良いですね」

「でも、そのエコバッグいっぱいに買い物となったら重くないか?」

「重くないと言えば嘘になりますが、これに入るくらいの重さなら我慢の範疇ですね」

「笑舞に限った話じゃないが、荷物持ちが必要ならいつでも俺を呼んでくれて構わないからな」

「お気遣いして頂きありがとうございます」

 ワタシのエコバッグの紹介が終わり、順番としてはここまで一切言葉を発していない柚鈴先輩の番となりました。

「ユズリンはエコバッグ持っているの?」

「い、嫌だなぁミササったら! ワタシだってエコバッグくらい持っているよ! ちょっと待ってね!」

 知らない間に先輩方がお互いをあだ名で呼び合っているというほほえましい話は一旦置いておいて、柚鈴先輩は自分のカバンの中身を机の上に広げながらエコバッグを探し始めました。

「柚鈴、無理しなくていいぞ。俺だってエコバッグ持ってないし」

「海君! ズボラなワタシだってエコバッグの一つや二つ! ……あった!」

 カバンの中身をほとんど全て取り出して柚鈴先輩が発掘したエコバッグはコンビニエンスストアで最も小さいサイズのレジ袋でした。

「笑舞、さっき海先輩が何の日って言っていたか記録している?」

「いや、ほら! ワタシ基本的に登下校時に買い物しないから!」

「別に持ってないくらいで誰も責めたりしないだろ」

 会長のその言葉にワタシたちは小さく頷きました。

「まぁ、しょっちゅうコンビニで買い物するのにエコバッグを持ち歩かない海が言えることでは無いけど」

「海先輩に似合いそうなエコバッグがあったらプレゼントしますね」

「いや、そこまでしてくれなくても良いよ」

「海はそれくらいして貰わないと使わないでしょ。ナナちゃん、今度一緒に探しに行こう」

「はい、是非」

 話を振って置いて最終的に好き勝手言われてしまった会長は口をとがらせながらこっそりと事務作業に戻っていました。



生徒会議事録

 海先輩の好きな色って何色ですか? 七海

 青色かな。 芹沢

 ちなみにユズリンは? 美沙

 赤! 柚鈴

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