しごとのあとは

 時計の長針と短針が十二で重なる少し前。ワタシは数合わせで呼ばれた女子野球部の練習試合を逆転満塁ホームランでエンドマークを打ち、シャワー室で汗を流していました。

「良い汗かいた!」

 ちなみにワタシは一人でいるときは割と大きな声で独り言を言ってしまうタイプです。

「先ほどの試合お見事でした。野球のルールは人並みにしかわからないですが、そんな私が観ても良い試合だとわかるくらいには」

 隣のシャワーから不意打ちで女子生徒の声がしてワタシは驚きのあまり化シャワーを自分の顔に向けてしまいました。

「ケホッ! お、お隣さんがいましたか! 失礼しました! 急に大きな声を出してしまって!」

「いえ、お気になさらずに。気配を出していなかった私も悪かったので」

「それにしても今日は暑いですね! とても十月とは思えません!」

 今朝の天気予報では今日の気温は20度前後と言っていましたが、ワタシは全力で動いていたので体感温度は30度以上に感じていました。

「こんな暑い日も生徒会長はお仕事なんて大変ですね」

「え?!」

「はい?」

 ワタシは彼女が言っていることがわからず、彼女はワタシが質問に対して疑問符で答えた理由が分からなかったようでお互いに素っ頓狂な声を出しました。

 間違えました、素っ頓狂な声を出したのはワタシだけでした。

「生徒会長が生徒会室へ向かうところを見かけたのでてっきり土曜日でも生徒会があるものだと思っていたのですが、違いました?」

「えっと、確か今日は無かったような! もしかしたらワタシの勘違いかもしれません! 教えて頂きありがとうございます! お先に失礼します!」

 生徒会に入っていきなり生徒会の活動をサボってしまったかもしれないと思ったワタシは情報を教えてくれた彼女にお礼を告げて猛スピードで着替えを済ませ、陸上部に教わった競歩で四階にある生徒会室に向かいました。

「遅れて申し訳ありません!」

 生徒会室の扉を開いたワタシは怒られる前に深く頭を下げて謝罪をしました。

「いきなりどうした?」

 頭を上げてその声の主でありこの明才高等学校の生徒会長である芹沢海君が両耳を塞ぎながら困り顔でそう言いました。

「今日って生徒会ですよね?!」

「土曜日は、第2、第4、最終週の土曜日以外は休みって伝えたような気がするけど」

 確かに昨日の帰りに海君からそのように報告を受けました。

「じゃあ、海君はどうして生徒会室に?」

「家に居られると邪魔だって言われたから時間つぶしに生徒会室の掃除でもしようと思って」

「何か手伝います!」

 流石に、

「休みならワタシはお先に失礼します!」

 なんて神様、仏様が許してもワタシ自身のプライドが許さないのでワタシは強くそう言いました。

「気持ちはありがたいけど、午前中に終わらせちゃったから」

「そうみたいですね!」

 何がどう変わったか一目見ただけではよく分かりませんが、とにかく生徒会室は昨日よりピカピカになっているような気がしました。

「どうしましょうか?!」

「そうだな……」

 二人で気まずい雰囲気になっていると、2人のおなかの虫がほぼ同時に鳴き始めました。

「もうお昼ですね!」

「昼か、どこで食べるかな」

 どうやら海君は昼ご飯を決めていなかったらしく、あごに手を添えて考え始めました。その光景を見たワタシは生徒会室の掃除を手伝えなかった代わりに海君にしてあげられそうなことをひらめきました。

「海君! 食堂へ行きましょう! 安い、早い、美味しいで最高ですよ!」

「食堂か。いつも弁当だから行ったことないな」

「じゃあ、一緒に行きましょう! ワタシ食堂のタダ券持っているのでお手伝いできなかった代わりに奢ります!」

「本当? じゃあ、お言葉に甘えるわ」

 ワタシは早速、海君の背中を押して食堂へと向かいました。



生徒会議事録

 食堂のタダ券ってどうやったら手に入るの? 芹沢

 ワタシは運動部に助っ人に行ったら貰っています! 柚鈴

 ナナは友達がたまにくれます。 七海

 姉さまが持っているのを見ましたが、正規のルートか否かは 笑舞

 美沙もお弁当だからわからない。 美沙

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