ういしまななみ

ナナこと初島七海には昔から自分の力ではどうにもならないコンプレックスがあります。

それは、小さな身長です。この身長のせいで、ナナは今日まで体育の時間に両手を前に出すタイプの前にならえをした事は無いし、黒板が見えないという理由で席替えの時に一番後ろの席になったことはありませんでした。

 そして何よりこの身長の一番嫌な所は、

「七海は本当に小ちゃくて可愛いなぁ」

 同級生に小動物のように愛でられることです。

「もぉ! ナナはハムスターでもワンちゃんでも無いからぁ!」

 毎日のようにナナの髪をわしゃわしゃにしてくる同級生の花江梨々花ちゃんの手を振り解いてナナは廊下へと逃げ出しました。

「おっと」

 廊下に出てすぐ、ナナは廊下を歩いていた人とぶつかりそうになったので慌てて足を止めました。

「これは美しい天使さんじゃないか。そんなに慌ててどこへお出かけなのかな?」

「あ、為奈副会長! ごめんなさい」

 ナナがぶつかりそうになったのは生徒会で副会長を務めている最上為奈さんでした。

「ふふっ、自分の行動が間違っていたと反省出来ているのなら良いよ。でも、違反を見てしまった以上は生徒会として指導させてもらうよ」

 そう言うと為奈副会長はナナに右手を差し出してきました。

「さぁ、こちらへどうぞお嬢さん」

 ナナは為奈副会長の手を取って、導かれるままに生徒相談室へ連れて行かれました。

「あの」

「いきなりこんな所へ連れ込んでしまって申し訳ない。ボクには君が悩んでいるように見えたものだから」

「悩みがないと言えば嘘になりますが。それよりも指導は?」

「指導ならボクとここまでくる間に嫌と言うほど味わったのではないかな?」

「た、確かに」

 為奈副会長と生徒相談室に来るまでの間にすれ違う生徒はナナを見て羨ましそうな視線を送って来ました。三人目の視線から耐えられなくなったナナは為奈副会長の手を離そうとしましたが為奈副会長はそれを許してくれず、生徒相談室に着くまでずっとナナの手を優しく包んでくれていました。

「恥ずかしい思いをさせてしまって申し訳なかったね。でも、これでもう二度と違反はしたくなくなったはずだよ」

「はい」

 確かに、もう二度とあんな経験はしたくないと強く思った瞬間でした。

「ではお嬢さん、ボクと個人的なお話をしようか。悩みがあるのならボクに話してくれないだろうか? 生徒会役員として、一人の人間として美しい少女が悩んでいる顔は見過ごせなくてね」

「実は……」

 ナナは為奈副会長に小さな身長がコンプレックスで悩んでいること、それが原因で小動物のような扱いをされることが多いことについて悩んでいると打ち明けました。

 今までそんな悩みを打ち明けることは出来なかったのに、為奈副会長は不思議とスラスラと話すことが出来ました。

「心の内を打ち明けてくれてありがとう。確かに周りが評価するように君はとてもチャーミングだ。でもそれだけじゃないとボクは感じている。七海くんは人を率いた経験はあるかな?」

「それは、リーダーとかですか?」

「そう捉えてもらって構わないよ」

 そう言われたナナは少し考えてみました。近い記憶から、中学校、小学校、幼稚園。どの時代もナナは

「無いです」

 ただの一度もナナは人を率いるような存在になったことはありませんでした。それどころかいつも誰かに頼ってしまっていて、それはまるで自分が嫌だと思っていた小動物の様でした。

「ボクの個人的な見立てでは七海くんはリーダーに限らず人を率いる才能があるように感じられる。甘える存在ではなく、甘えさせる存在になる。そうすれば少しは七海くんの見られ方も変わるのではないかな?」

「なるほどです。でも、そんなすぐには……」

「あまり個人に肩入れしたくは無いのだけど、彼女らしく言うならこれはボクから七海くんへの一つの提案なのだけれど」

 そう言うと為奈副会長はとてもさわやかな笑顔をナナに向けました。

「生徒会役員選挙に立候補してみてはどうだろう? 結果は約束できないけれど、ボクは七海くんが挑戦するのなら応援させてもらうよ」

「生徒会選挙……」


 ふと、数日前の出来事を思い出したナナは自然と生徒会選挙の一年副会長へ立候補していました。

 きっと茶化されてしまうのだろうと思っていたナナですが、結果はナナの想像とは真逆のものでした。

「頑張って。七海の挑戦をわたしは応援する」

 普段はナナを小動物扱いして髪の毛をぐしゃぐしゃにしてくる梨々花ちゃんがとてもまじめな顔でナナを応援してくれました。




 為奈副会長に背中を押され、クラスの皆からの応援を受けて生徒会一年副会長に立候補したナナはまだ知らなかったのです。まさか、あんな結果になるなんて。

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