はやかわゆずり

「そんじゃぁ、次の生徒会選挙の立候補者をサクッと決めちゃうよぉ~ 立候補する人は挙手でお願いしまぁ~す」

 とても選挙管理委員とは思えない口調で選挙管理委員の仕事をこなしている真白友利ちゃんを微笑ましく見つめながらワタシこと早川柚鈴は自慢の白く細い腕を高々と掲げました。

「そこで手を挙げてるのは……うっそぉ! まさかのユズリン!」

 友利ちゃんがワタシの名前というかニックネームを告げたことで教室は一瞬のうちに騒然としました。その際に上がった発言を一部抜粋すると、

「嘘でしょ、柚鈴ちゃんが生徒会に入ったら誰が運動部の助っ人をするの?」

 これは、ワタシがよく助っ人をしている女子サッカー部の子が言っていました。

「早川さんが立候補するなら他が誰だろうと絶対早川さんに入れる」

「何言ってんだ! そんなの男子として当然だろ」

 これはクラスの男の子たちが言っていました。嬉しいですが、少し恥ずかしいです。

「ユズリンめっちゃガチじゃん。超マジ顔だしぃ。このマジ顔見て異議とかないでしょ」

 説明不要。友利ちゃんです。

「早川さんが、生徒会に……数学以外の成績が落ちないと良いのだけど」

 ありがたいことにワタシの成績の心配をしてくれたのはワタシの在籍する2年4組の担任で南帆ちゃん先生こと桜ヶ丘南帆先生でした。成績に関してはノーコメントで。

「ワタシ、数学が得意なので生徒会会計に立候補したいです! 今まで通り、助っ人も両立しながら頑張るつもりです! よろしくお願いします!」

「早川さん、勉強は?」

 南帆ちゃん先生が何か言っていましたが、聞こえなかったことにしてワタシは自分の本当の実力が存分に発揮できる仕事に挑戦したいという気持ちをクラスの全員に伝えました。

「ユズリンの思いに異議ある系の人ぉ?」

 嬉しいことにワタシの思いに異議ある系の人は一瞬手を挙げかけた南帆ちゃん先生を除けば誰1人としていませんでした。

「異議なし系な感じなのでユウたち4組はユズリンを全力で応援する系で良きですか?」

 友利ちゃんがそう言うと友利ちゃんに影響されたクラスの人たちは皆、まるでパーティー会場の様に盛大に盛り上がりました。


 その日の放課後。南帆ちゃん先生に呼び出されたワタシは職員室へと向かいました。

「早川さん、忙しいのに呼び出してごめんなさいね。余計なお世話だとは思ったのだけれど、必ず早川さんの役に立つと思うからこれを受け取って欲しいの」

 南帆ちゃん先生がワタシに手渡してくれたのは分厚すぎる紙の束でした。

「南帆ちゃん先生、これって?」

「早川さんの苦手科目をまとめたプリントよ。やって損することは無いから」

「あ、ありがとうございます」

 ワタシは苦笑いをしながら南帆ちゃん先生の物理的にも精神的にも重すぎる思いに感謝の言葉を伝えて下校しました。




 今日の事を振り返って、ワタシは色んな人に応援されているのだと心から実感しました。そして、ワタシはその思いを無駄にしないためにも誠心誠意頑張らなければならないと強く感じながら中でも特に強い思いである南帆ちゃん先生の思いをそっと机の引き出しの中に仕舞いこみました。

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