ふくしなみさ

「では次に、生徒会副会長の立候補者がいれば挙手をお願いします」

 生徒会役員選挙を中立な立場で運営する選挙管理委員会に所属している大谷知子ちゃんが淡々とそう告げましたが、教室はつい先程決まったばかりの生徒会長の立候補者二名の話題でざわついていました。

「あ、あの」

 普段から仕事は淡々とこなす知子ちゃんですが、クラスメイトほぼ全員が想定外の事態に知子ちゃんも動揺しているようで美沙が先ほどの海を見習ってピンと伸ばした手を見逃していました。

「居ないようなので次に……」

「知子ちゃ~ん! いるよ~」

 生徒会役員として公私ともに冗談を言うようなキャラには見られないように心がけている美沙がついうっかり素を出してしまうほど知子ちゃんは混乱していました。

「あ、申し訳ありません。福品さんが生徒会副会長に立候補ですね。他に立候補者は……いないようなので2年3組からの生徒会副会長の立候補者は福品さんだけという事で次へ進みたいと思います」

 知子ちゃんは少し落ち着いたようで続いて生徒会会計、生徒会庶務の立候補者を募りましたが、2年3組からはこれ以上立候補者は現れませんでした。


「明日香ったらそんなに海が生徒会に立候補するのが嬉しいの?」

 生徒会役員立候補者を募るホームルーム終わりの休み時間に私と明日香は生徒会室に集まって雑談に興じていました。

「そ、そんな事は無いから。むしろ、海まで生徒会長に立候補してきたのは私としては不愉快だし」

「へぇ、美沙はとてもそんな風に思っているようには見えないけど」

 美紗にはむしろ明日香が海と生徒会選挙で同じ役職を巡って争うのが楽しみで仕方が無いように見えました。

「会長は海には次期生徒会に入ってもらいたいみたいだけど、私は絶対に会長に就任して見せるから」

「決めるのはあくまでも明才の生徒だからね。美沙も美沙以外に立候補者がいるかもしれないからすぐに公約を考えないと」

「それもそうだけど、私たちは次期役員の為に引き継ぎ業務の準備もしないと」

 明日香の言う通り、美沙たちは次期生徒会役員選挙の当落に関わらず9月末の任期満了後に引継ぎをしなくてはいけません。もちろん、生徒会副会長の座を誰かに渡すつもりはありませんが。

「美沙、お互い頑張ろうね」

「もちろん」

 美紗たちは現職の生徒会役員のみが着用を許可されている腕章が着けられた右腕を組んで互いと、自身の健闘を祈りました。




 美紗にとって人生のターニングポイントどころか学生生活の一部となっている生徒会役員という仕事。ただこの時、美沙は薄々勘付いていました。次の一年はこれまでの生徒会とは違った一年になると……。

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