走馬灯の道

 気が付くと、私は不思議な場所に立っていた。周囲は真っ暗で、足元には白い道がまっすぐ前方に伸びている。背後には、何もない。

 自然と足が前に出た。白い道を進んでいく。すると、周囲の暗闇に風景が浮かんだ。四角く切り取られたそれはまるで大きな写真のようだった。

 その風景写真にはある建物が写りこんでいた。それは大きな石造りの孤児院だった。

 思い出したくもない記憶が掘り起こされる。見たくもない鏡を見せられる。

 孤児院での生活は決していいものではなかった。食べ物も衣服も全てが取り合いだった。奪い奪われるのが日常。それが嫌で嫌で、一刻も早く逃げ出したいと毎日思っていた。

 再び歩き始める。次に現れたのは、曇り空の下の路地裏。石畳に流れているのは、血だ。

 13の時に孤児院を出た。行く当てもなかった私は路地裏で野良犬同然の暮らしをしていた。

 ある日、酔っ払いから財布を盗んだ。それがバレて追いかけられて、殴られた。だからやり返した。引きずり倒し、馬乗りになって何度も殴った。そのうちそいつは動かなくなった。それからしばらくの間そいつの仲間らしき大人が報復のために街をうろうろしていたが、まさか子どもにやられたとは思わなかったようで、なんとかやり過ごすことができた。

 また、足が自然と前に進み始めた。路地裏の写真が視界の後ろに消え、次の写真が浮かび上がった。だんだん分かってきた。この写真たちは……。

 ぼろぼろの街並み。ところどころが崩れていて、無事な建物の方が少ない。

 戦争。隣国が突然この国に攻め込んできたらしい。戦争は長く続いた。そんな中、私は自分が生き延びるために街中で見聞きした自国の軍の情報を売って暮らしていた。やがてそれが自国軍に見つかり、売国奴として処刑された。

 もう私は気付いていた。周囲に浮かんできた写真は私の記憶だ。私はあの日死んだのだ。

 こうして見せられると、思い知ってしまう。なんて空っぽな人生だったのかと。でも、意外と悔いはなかった。悔いを覚えることすらできないほど、私は空っぽだった。

 道はまだ伸びている。この先には何があるのか。ぼんやりとそんなことを思いながら、足が動くのに任せて私は歩いていった。

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