ある皿の憂鬱

 並べられるのを待っている。

私は皿。とあるレストランで使われている。いや、使われていたと言った方が正しいだろう。そのレストランは今はもうない。

 かつての私は、様々な料理を乗せてお客さんの前に並べられていた。私はそんな彼ら彼女らの喜ぶ顔を見るのが好きだった。

 特別な日のディナー、ちょっとぜいたくなランチ。そういった料理を彩るために私という皿はあった。そのことを誇りに思っていた。

 今の私は棚のにぎやかしでしかない。なんでも私は他の皿よりいくぶん高級品だったようで、レストランが閉店し引き取られた先でそれはもう大事そうに飾られている。

 高級であろうがなかろうが、私は皿である。料理を乗せて食卓に並べられてこそ、皿としての役目を果たすことができる。

 願わくば、もう一度料理を乗せてお客さんの前に並べられたい。料理を口に運び、ほころぶ顔が見たい。これはもう叶わない願いなのだろうか。

 今日も私は博物館の棚で来るかどうか分からない出番を待っている。

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