とあるキャラバンの旅の終わり
砂漠のオアシスが多くの人でにぎわっています。キャラバンが訪れたのです。
「やぁやぁこんにちは。君たちはどこから来たのかな?」
まだ年若い娘が、見た目には不釣り合いな大仰なしゃべり方で声をかけました。
「東の国からだよ。あちらの品物を仕入れてきたところだ」
娘に話しかけられた男性が答えます。
「そうかそうか。東の国から。ずいぶんと長い旅路だっただろう」
「そうだね。でも、僕たちはずっとこうして生きてきたから。そこまで苦ではないんだよ」
うんうん、と頷きながら娘は、
「それもここで終わりだよ。これからはもうそんなことしなくていいからね」
と不思議な言葉を言い残して去っていきました。
翌朝、キャラバンの仲間がおかしなことを言っています。
「このオアシスから出られない」
そんなはずはない。そう言ってそれぞれがオアシスから離れていきますが、少しすると皆こちらへ戻ってきます。そして口をそろえて言うのです。
「まっすぐ進んでいたはずなのに」
この異常事態に仲間たちが慌て始めた頃、昨日の娘が再び現れました。
「どうしたんだい?何故出ていこうとしているのかな」
娘はとても不思議そうに首をかしげています。
「何故って、僕たちはキャラバンだから。仕入れた品物を売って稼がないと」
「そんなこと、する必要ないじゃないか」
娘の言葉に仲間たちがいっせいに注目します。
「ここには水もある。実りもある。金なんかなくても生きていけるよ。だからもう、ここで暮らせばいいじゃないか」
「何を、言って……?」
「私はずっとこのオアシスと一緒にいるけれど、ここを訪れる人たちはみんながみんな、少し休むと出ていってしまう。それが不思議でならなかったんだ。ここにいれば、辛いことなんてなんにもないのに。どうして過酷な外に向かっていってしまうのか」
だからね、と続ける娘の目はあやしく光っているように見えました。
「ここから出ていけなくしたんだ。ここの良さに気付いてもらうために」
その目がひときわ大きく輝きました。すると、キャラバンの仲間たちがバタバタと倒れていきます。
「おやすみ。次に起きた時には自分が外で何をしてたのかなんて覚えてないから」
そう言って、娘の姿は蜃気楼のように消え失せました。
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