春告げる鹿
私が住んでいる山村では、鹿は特別な生き物だ。彼らは山に住む神様の使いであり、私たちに様々なお告げを伝える役目を担っている。
「今日ね、鹿さん見たよ」
夕飯時、娘がそう言った。
「そうかい。イタズラしたりしなかったろうね」
「しないよ。バチが当たったら嫌だもん」
それにね、と娘は続けた。
「その鹿さん、とってもきれいな角だったの。いろんな色の花びらがたくさんくっついてたの」
「ほぉ。もうそんな時期なんだね」
「どういうこと?」
「その鹿は私たちに春を告げに来たんだよ。山のどこかで花が咲くと、その花びらを角にまとって、教えてくれるのさ」
鹿がどうやって角に花びらをまとうのかは誰も知らない。村のご老人たちは山の神様が手ずから角を飾りたてているのだという。私も半ばその話を信じているし、そもそも鹿を見ても追いかけるのはご法度だから確かめる術はない。
ともかく、鹿が春の息吹を報せてくれたのだから、厳しかった冬の終わりもすぐそこだ。私は来たる春の訪れに期待して目を細めた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます