呪災掃討委員会のとある活動
「なんだありゃ?」
横断歩道の向こう側にその二人を初めて見かけた時、思わず口からこんな言葉が転び出た。
その二人はまず服装からおかしかった。片方はウェディングドレスを動きやすいように仕立て直したような純白のドレスを着ていた。服だけでなく、手袋や靴に至るまで全身真っ白だ。
一方、隣を歩いているのは、スラっとした真っ黒なパンツスタイルに黒いジャケットを着こなしている。身体のラインからこちらも女性だと分かる。こんな片田舎の商店街において、二人の風貌は明らかに異質だった。
「お、スミレさんにコクヨウさんだ。今日はツイてるな」
一緒に登校していたガクが呟いた。
「え?知り合い?」
俺が尋ねるとガクは首を横に振って答えた。
「先月ぐらいからかな。この辺に現れるようになったんだよ。話しかけたら世間話ぐらいはしてくれるんだけど、実際あの人たちが何者なのかは誰も知らないんだってさ」
「へぇ……、ってガク、話しかけたのか?あの二人に?」
「そうだよ。あれだけ美人さんなんだから、是非お近づきになりたいじゃん。噂じゃあの二人恋人同士なのかもしれないんだって。だから間に入ることは許されないんだけどね」
最後の方は何を言っているのかよく分からなかったけど、ガクのこの社交的な部分は素直に尊敬している。
「ちなみに黒い服の方がコクヨウさんで、白い方がスミレさん。服装から見てコクヨウさんがスミレさんをエスコートしてそうなのに、スミレさんの方が背が高いのもポイント高いよな~」
そう。コクヨウさんは遠目に見ても160cmほどなのに対し、スミレさんはコクヨウさんよりずっと背が高い。女子バレーの選手みたいだ。
そう考えているうちに信号が青に変わった。同じタイミングで俺たちは横断歩道を渡り始め、徐々に距離が近付いてくる。そしてすれ違う瞬間、コクヨウさんが俺の手を掴んだ。
そして俺を半ば引きずる形で横断歩道を渡り切った。俺はさっきまで立っていた位置まで戻ってきてしまった。ちなみにガクもあたふたしながらついてきてはいるがとりあえず何の役にも立ってはいない。
「何すんだよ!」
コクヨウさんの手を振りほどき、立ち上がろうとする。しかし今度はスミレさんに頭をわしづかみにされて動けなくなってしまった。二人とも女性とは思えない力の強さだ。
足元でもがく俺の頭上で二人の声がする。
「こいつだな。この町の呪災の元凶は」
「そうね。やっと見つけたわ」
「あんたら何言ってんだ!っつーか手をどけろ!」
俺が声を上げると、二人はグイっと顔を一気に近付けて言った。
「助けてあげますので、」
「四の五の言わずに、」
「「ご同行願います」」
その言葉に込められた迫力はすさまじく、俺は頷くことしかできなかった。
日が既に落ちている時間帯、俺は学校の近所にある公園に連れてこられていた。そして公園の外灯の一つに縛り付けられていた。自分が置かれている状況に脳の処理が追い付かない。なんでこんなことになっているんだ?
「なぁ」
「どうかしまして?」
答えたのはスミレさんの方だ。
「学校帰りの高校生拉致ってこんなところに縛り付けて、何の説明もなしなんてちょっとありえないと思わないです?」
皮肉っぽく言ってみると、彼女は小さくため息を吐いてから、
「いいでしょう。開示できる情報の範囲で説明します。まず、あなたは現在、災いを呼ぶ元凶となっています。このまま放置しておくとあなたの周囲、この町全体に影響が出ます。それを最小限にするのが私たちの仕事です」
「なんだよそれ。まさか、俺を殺すつもりなのか?」
「そんなことはしない」
僕の問いに答えたのはスミレさんの足元にしゃがみこんでゴソゴソしていたコクヨウさんだった。その片手には細めの鉄パイプのような鉄棒が握られていた。ご丁寧に先端が斜めに切り落とされていて、言葉とは裏腹に殺意の高い形をしていた。
「お前の中の元凶を覚醒させる。そしてそれにおびき寄せられた呪災を私たちで枯れるまで処理する。準備はいいか?」
そう言ってコクヨウさんは鉄の棒を俺に向けてかまえた。
「ちょ!ちょっと待てよ!準備って……」
「私の準備はできてるわ。やってちょうだい」
「準備って、俺に言ったんじゃなガッ!」
鉄パイプが俺の額に突き刺さる。次の瞬間鉄の棒が形を変えた。
それは、いつだったか学校の授業で見た生物の進化の系統樹のように見えた。
何十にも枝分かれしたそれから紫色の煙が立ち上り始めると、周囲の空気が明らかに変わった。そこから急に俺の記憶はもやがかかったようにはっきりしなくなる。
思い出せるのは、何かが群れを成して俺の方に押し寄せてくる光景。その何かは人のように見えなくもなかったが、何かが決定的に異質だった。それは生き物としての格というか、在り方が違っていた。
そんな身の毛もよだつ存在たちをコクヨウさんとスミレさんは二人だけで蹂躙していた。
スミレさんの両手が大きく見えるのは、手甲のような武器のせいで、彼女はそれを使って次々と異質な生き物の頭を的確に叩き潰していく。コクヨウさんは拳銃のような飛び道具でスミレさんを援護している。
どれだけ異質でも、生き物である以上は肉を持ち血も流れるらしい。スミレさんのドレスはどんどん血に染まっていく。
長かったような短かったような、そんな曖昧な時間が経った後、公園にいるのはスミレさんとコクヨウさん、そして俺だけになっていた。コクヨウさんは浅く一息吐いてから、
「呪災の殲滅を確認。仕上げに入るぞ」
とスミレさんに言ってからこちらに歩いてきた。そして俺の額に深々と突き刺さっている鉄の棒をためらいなく引き抜いた。形が変わり、枝分かれしたままのそれを、スミレさんが手甲で軽々と粉砕した。
「これで終わりっと」
その言葉を聞くと同時に、俺の意識は途切れた。
翌朝、俺は自室のベッドで目を覚ました。頭がガンガンする。心当たりを探ろうと昨日の記憶をたどるが、ぼんやりして何も思い出せなかった。
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