決闘
さぁさぁ、今日は決闘の日だよ。私が仕えているサゴラス将軍の一人息子ジーニ様と、ウセフィス将軍の次男バナー様が、これから決闘を始めるよ。二人は旧知の間柄。どうなっちゃうんだろう、楽しみで仕方ないね。私もこの大きな仮面の下でニヤニヤが止まらないよ。
おぉ?二人が宣言をしたよ。ジーニ様が勝てば、あの方は自分らしく自由に生きるんだって。バナー様が勝ったら、ジーニ様は自由への夢を捨てて将軍家の後を継ぐんだってさ。つまりこの決闘でジーニ様の今後が決まるってわけだね。こんな自分に得のない決闘をおとなしく引き受けて、バナー様はとんだお人好しだー。
そんなわけで始まりました我が国の誇る二つの将軍家のご子息による戦い、実況はサゴラス将軍に仕える道化で占い師のこの私、サラヘビがお送りしま~す。
おぉっと、早速間合いを詰めて切り込んだのはバナー様だ。バナー様のサーベルさばきはご兄弟も舌を巻くほど。果たしてジーニ様はしのぎきれるか?
バナー様のサーベルが少しずつジーニ様の身体に浅い傷を付けていきますー。これはジーニ様の戦意を削ぐ作戦か?
一方ジーニ様も負けじとサーベルを振るいますが、バナー様にかすることもなく全てかわされています。戦況は歴然だー。
と、ここでバナー様がジーニ様のサーベルを弾き飛ばしました。武器のなくなったジーニ様。いや大丈夫、武器ならあります。ジーニ様自身の内に!
ジーニ様が何か短く呟くと、弾き飛ばされたはずのサーベルがバナー様めがけて突っ込んできました!間一髪のところで避けるバナー様!かわされたサーベルはジーニ様の手には収まらず周囲をふわふわと浮いています。そうです!サゴラス将軍家は代々魔術師の家系なのです!さぁ、この太刀筋の見えない刃にどう戦うバナー様!
え?な、なんと、バナー様、ジーニ様の刺突を左手で受け止め、そのままの勢いでジーニ様を引きずり倒した!こういうの、東方では肉を切らせて、えーとえーと、何かそんな感じのコトワザあるんですよ!私知ってます!ド忘れしてますが!
地面に倒されたジーニ様の目前にはバナー様のサーベルの切っ先が。どうやらここで決着ですかねー。大方の予想を覆す展開にはなりませんでした。
そして敗れた主人をねぎらうようにジーニ様の愛犬が二人の元に駆けていきます。この犬、幼少の頃バナー様からジーニ様に贈られた友情の証だそうです。
おっとぉ、急にその犬がバナー様にとびついたー!そしてそのままバナー様の喉笛にかみついたー!血がほとばしるー!
今度こそ決着!決着です!最後に立っていたのは、ジーニ様だったー!
ジーニ様がこちらに歩いてきます。
「サラヘビ、勝てたのはお前のおかげだ。お前が策を授けてくれなければ、僕は勝つことができなかった」
「何をおっしゃいますやら。ジーニ様のご決断あればこその勝利です。お辛かったでしょうに」
「確かに勝利はしたものの、僕は旧友を失った。でも、これで自由になれるなら……」
「いえいえ、私が言っているのはそこではなくて」
「サラヘビ?何を言って……」
「忌み嫌っていたお父上がかつて用いた策を使うなど、自由のためにサゴラス将軍家のやり方まで利用して。あなた様はもう立派に将軍家の跡取りですよ」
「なんだと……?」
「だってそうでしょう?目的のために手段を選ばないそのやり口、完全にサゴラス将軍家に染まり切ってる証拠ですよ」
「違う!僕は、僕は、私は……」
「おかわいそうなジーニ様。普通ならあんな手段選ばないものなのに。魔術師の世界しか知らぬあなたは平然と採用してしまって。それよりなによりお父上の言いつけで性別まで偽って、それが嫌で嫌でこんな決闘まで始めちゃって。。かわいそうついでにお尋ねしますけど、ジーニ様の言う『自分らしく』って、自分の自由のために好いた男の喉を犬に食いちぎらせることを言うんですか?」
「あ……あぁ……」
あらあら、ジーニ様が頭を抱えてうずくまってしまいましたよ。おかしいなぁ。せっかく勝てたっていうのに。本当に可笑しいなぁ。
「結局あなたは将軍家から、魔術師というものから逃げられはしないんですよ。おとなしく与えられた世界で生きてればいくらかマシなんじゃないですか?って、もう聞こえてないか」
そんなこんなで此度の決闘、二つの将軍家はお互い痛み分けって感じかなー。心に傷を負ったジーニ様、いえ、ジーニちゃんの今後への期待に胸いっぱいのサラヘビなのでした。ウププププ。じゃあねー。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます