怒らせちゃった
「私たちってさ、相性良くないよね」
彼女の言葉に、私は思わず固まってしまった。
「え?突然どうしたの?」
「だってそうじゃん。私たち、確かにビジネス上ではパートナーかもしれないけど、だからってあんたと仲良くしたいと思ったことないんだよね」
「でも、パートナーになった時、『仲良くしてね』って……」
「あんなの社交辞令に決まってるでしょ。何?私がそんなに友達いなさそうに見えた?」
言葉が棘となって心に刺さるのを感じたけど、そんなこと知ってか知らずか、彼女は黙らず話し続ける。
「社交辞令。そう、社交辞令よ、ただの。それをあんたは真に受けちゃって、しょっちゅうお茶に誘ってきて。いい加減もううんざり。あんた、他人との距離の取り方下手すぎ」
「だったら、なんでもっと早く……」
そう言いかけたら、彼女にキッとにらみつけられた。
「何度も出してたわよ!サイン!でもあんた鈍感過ぎて一向に気付かないし!」
ヤバイ。火に油を注いでしまったようだ。
「確かにあんたに感謝すべきところもあるかもしれない。でもね、それでも不満の方がずっとずっと多いの!分かる!?」
ものすごい剣幕でまくしたてられて、私は身体を小さくしてうつむくことしかできなかった。
「あんたは楽しいものを一緒にやったらもっと楽しいみたいな理論でいるみたいだけど、もうちょっとよく考えて?あんたにとって楽しいことが私にとってもそうである確率ってどれぐらい?」
「え!?じゃあ、今まで一緒に見た映画とかドラマは、」
「一緒に見た!?ハァ!?見せられてたのよ!あんたおすすめの、私は全く興味のないコンテンツの数々を!」
「そう、だったの……」
私は本当に肩を落とした。そんな私の様子を見て彼女は、
「……でも、一つだけ言うこと聞いてくれたら、今後も『お友達』でいてあげてもいいわ」
うつむいたまま、彼女の方に視線を向けた。自然と上目遣いの形になる。
「あんた、たった今から禁煙できる?」
「ごめん、ムリ」
「なんで即答なのよ!ちょっとは考えなさいよ!」
「だってー」
「だって何よ」
「タバコは心の安定剤なんだもん。これないと仕事もプライベートも立ち行かないもん」
そう言いながら次のタバコに火を点けようとしたところで彼女に奪い取られてしまった。
「私何度も言ってるよね!髪に臭い付くからタバコやめてって!今日だって、私がこんだけ怒ってるのに目の前で優雅に足組んでパカパカパカパカ!」
それが言われてる人間の態度か、と彼女は私を怒鳴りつける。
「とにかく、あんたは友達だと思ってたみたいだったけど、わたしは違うからね!じゃあね!」
そう言い捨てて彼女は乱暴に席を立って店を出ていった。そっかー、私たち友達じゃなかったのかー。
別に落ち込んだりはしなかった。彼女も言った通り、私は他人との距離が上手く取れない。だから、一気に距離を詰めすぎたり逆に距離を取り過ぎたりで結局ちょうどいい関係を築けないのはよくあることだった。
私は大きくため息を吐いてから新たなタバコを取り出して火を点けた。
「今後の仕事に影響するかなぁ、今日のこと。営業担当から外されちゃうかもなぁ。私好きなんだけどなぁ。彼女のフラワーアレンジメント」
もしそうなったら、そっちは少し残念かもなー。口から吐き出したタバコの煙を目で追いながらぼんやり思った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます